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クラウスと担がれたまま眠る白髪の女と少女を連れて先程とは違う雰囲気の路地へと入っていた。少女クラウスとはぐれぬようにピッタリとくっつきながら歩いていく。少女はこの場所がどういった場所かを把握していたためだった。
見るからに怪しい店舗が立ち並んでいた。中には人身売買を目的とした店や、ドラッグを販売する店、法外な金利をとり融資をするといった闇金融の店等が集まる場所。通称ブラックマーケット街と呼ばれる法の外の地区。
人通りは少なく、いるのは紛れもないヤク中かブラックマーケットの関係者だった。
「クラウスさん。ここって……」
クラウスが足を止めたのは人身売買を目的とした店の前だった。少女は嫌な予感が当たったといったような表情をしたが“自分はどうなってもいいと”言ったのは自分だと思い出す。
「大丈夫だ」
クラウスはそれだけ言うとその店へと足を踏み入れる。少女はクラウスの言葉だけを信用し、恐る恐る店内へと足を踏み入れた。
しかし、外の看板とは中の雰囲気が違い。薬品や医療機材が並ぶ診療所のようだった。
「おっと。またお前さんか。一日に何度も来るなんてよっぽど腕が良いんだな」
奥から出てきたのは、ボサボサの緑色の髪にエメラルドグリーンの瞳。ヨレヨレの白衣を着た長身の男だった。嫌味とも取れる言葉を放つも白髪の女に視線は行っていた。
「この女の治療を頼みたい」
クラウスは近くにあるベットに白髪の女を寝かせる。少女は医者には見えない男を警戒の眼差しで見つめるが、白衣の男は手際よく傷口の観察をすると右手を顎に添え、少し考えるようにしてクラウスに眼を向ける。
「どの傷も唾でもつけておけば治りそうなもんだが、大腿部の傷口に入り込んだ衣類の繊維は取り除かないと化膿して腐っちまうな。場所が場所だ相当痛むぜ?」
クラウスは、分かっているとだけ返すとポケットから取り出したクシャクシャの紙幣数枚を近くのテーブルに置く。少女の目から見ても治療代としては多過ぎる金額だった。
「金は置いてく。麻酔でもなんでも使ってやってくれ」
白衣の男は驚いたようにクラウスに視線を向けた。
「治療ならすぐ終わるが? 連れじゃないのか?」
「赤の他人だ。 名前は――」
クラウスは少女を見る。
「フィーネだと、教えてくれました」
白衣の男が名前を紙にメモを取るときには、クラウスはその場を後にしていた。
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