第一章 黒腕の剣銃士

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   それからはセリアと母のシルフィが話し込み。じきに父のリンドが騒ぎに気が付き、セリアを中心に両親が感極まり最終的には三人が何を言っているのか分からないほどに泣きながら、セリアが戻ってきたことに喜び合っていた。  クラウスは途中まで様子を見届けていたが、入り口のドアを閉め外で待つことにした。カーゴパンツのサイドポケットから煙草を取出すと、慣れた手つきで火を付け煙草を嗜む。  陽が完全に落ち、外気が冷え込み始めた頃に入り口のドアが開き父のリンドが顔を覗かせた。 「貴方が娘を救ってくれたクラウスさんですか?」  リンドの言葉にクラウスは思わず否定の言葉を返してしまう。元々クラウスはフィーネやセリアを助ける気があった訳ではないのだ。成り行きでそのようになっただけであり、クラウスにとって“救った”という感覚はなかったのだ。  リンドとクラウスの間になんとも言えぬ空気が漂う中、セリアが店から出てきたことによりクラウスとリンドは店の中へ入ることになった。 「本当にありがとうございました。 結果的には娘も無事で、なんてお礼したら良いのか……」 「いや……気にしないでくれ」  シルフィの余りにも腰の低い対応にクラウスも戸惑うばかりで、野宿にすれば良かっただろうかと悩むクラウスだったが、眼を赤く腫らしたセリアがその様子に気が付き半ば強引にクラウスを部屋へと案内する。  クラウスが案内された部屋は三階の一番端の部屋をあてがわれ、セリアが部屋の中の案内を一通りするとベットの上にちょこんと座る。 「ごめんね。お父さんとお母さん心配性だから」  申し訳なさそうというよりは、少し嬉しそうに話をするセリアを見たクラウスは部屋のソファーに座る。 「それが普通なんだろう」  クラウスの言葉にセリアは嬉しそうに小さく頷く。それからは他愛のない話をしていた。夕飯をどうするか、いつまでこの街にいるのか、一人で旅をしているのかなどセリアが一方的に質問するのに対し、クラウスは短く簡潔に返していた。
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