第一章 黒腕の剣銃士

13/32
前へ
/37ページ
次へ
   クラウスは男の話を聞くとフッと笑った。 「アンタ、最高の闇医者だな」  白衣の男も口角だけが上がる。 「ヤブ医者と言われなくてよかったよ」  セリアには異常な光景にしか見えなかっただろう。普通であれば、こんな時に冗談を言っている場合ではない筈なのだ。 「お姉さんが、やったの? お姉さんはどこ?」  白衣の男は体を引きずり起こし、ひっくり返ったテーブルにもたれると傷が痛むのだろう。だが、セリアとクラウスの顔を見ると控えめに喋りだす。 「あんなものを見たのは、初めてだ。信じてもらえないかもしれないが、聞いてくれ。あの嬢ちゃんは、俺が初めに眼が合った時は青い眼をしていた筈だ。」  フィーネの眼がサファイアブルーだったのは、クラウスもセリアも知っていた為黙って聞いていた。 「でもな。俺の姿を見るなり苦しみ出してな。麻酔の副作用かと思った。麻酔で軽い幻覚症状なんていうのは、体質によってはあり得るんだ。だが違った。次の瞬間には魔物みたいに真っ赤な眼が、俺を見るなりいつの間にか、気が付けば長い爪で腹を捌かれてた」  クラウスは朝の電話を思い出した。まさかとは思っていたのに、そのまさかだったことに頭を抱える。  白衣の男は思い出したかのように声を上げる。 「俺が腹の傷を塞ごうと手で抑えてる時だったか。“またこの子を傷付ける気か?”と顔に似合わず酷く低い声で言われたんだが、心当たりあるか?」  クラウスにはアテもなく頭を横に振るが、セリアの反応は違った。 「嘘だよ。お姉さん、声が出ないって……」  白衣の男は昨日セリアにフィーネの名前を聞いたのを思い出し、どのようにして分かったのかと聞く。 「地面に書いてくれたから。その時に声が出ないって教えてくれて。それに変な人達に捕まる時に庇ってくれて、最後まで助けて……」  セリアが顔を覆い、声を殺しながら泣いてしまう。クラウスはゆっくりと立ち上がると、セリアの頭をポンと軽く撫でると診療所を出ていく。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加