第一章 黒腕の剣銃士

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   クラウスがブラックマーケット街から中心街へと歩を進める中、後ろからセリアが追いつく。 「クラウスさん! あの人は!?」  あの人とは白衣の男の事だろう。クラウスは振り返ることなく答えた。 「闇医者でも医者の端くれ。応急処置は済んでる。大丈夫だ」 「じゃあどこに行くの!?」  クラウスが歩くのを止める。 「お前は家に帰れ。途中まで送る」 「……お姉さんは?」  セリアの声は不安に押し潰されそうな程に小さな声だった。クラウスは顔だけをセリアに向け答えた。 「夜には連れて戻る」  その一言を聞いたセリアは闇医者の件については納得していないが、暗かった表情を少し明るくし、クラウスの後をついて歩き出した。中心街に辿り着き、洞穴のうさぎの前でセリアとクラウスが別れた。  セリアが宿屋へ入るのを確認すると、ホードを取出し今朝電話があった番号へと折り返しの電話をかけた。 「もしもし。私だ」  相手の声に若干の怒りが篭っていた。 「ターゲットの情報を手に入れた。聞きたいことがある」  クラウスはそんなことは気にせず話を続けた。 「昨日俺が仕留めたフライド・ヴァインの親玉がいるアジトの場所を送ってくれ。無駄な死人が出る可能性がある」 「早急に調べさせて貴様のホードに送る。だが、貴様は本当に仕事が早くて助――」  クラウスは例の如く通話の途中で切った。  ホードをポケットしまい煙草を取り出した途端、ホードにメールの着信音が鳴る。仕事が早いのはどっちだと悪態をつきながらも、煙草をポケットへとねじ込みメールを確認していた。  場所はクラウスのいる中心街から七キロといった荒野のど真ん中に、昔使われていた街の開発事業の工場がアジトになっていることが分かった。  余談だが、メールの一番下には“くたばれ!”といった文章が添えられていた。  クラウスは場所の確認を終えると、ブラックマーケット街の方角へと再び足を向け、アジトがあるとされる荒野を目指す。  その頃、セリアは両親に闇医者が重症のケガをしている事を伝えるが、所謂ブラックマーケット街を拠点とし活動する闇医者と呼ばれる者は、公共の医療機関での治療が出来ないという話を初めて聞かされていた。
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