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子供のころ、母と一緒にいる時はどんな夢でも叶うと思っていた。
自由に駆け回り、欲しいものを手に入れ、毎日を笑って過ごす。母と過ごす時間は、そんな事などとても簡単だと思わせてくれた。
それは本当に、とても簡単そうに思えたんだ。
なのに、僕は
――母を二度殺した。
今にも雪が降り出しそうな真っ黒な雲が月明かりさえも遮って、寂しい暗闇が周囲の風景までを包み込んでいた。
「お母さんに会いたい?」
母さんが眠る墓石の前でどれだけの時間を過ごしただろうか。少なくとも九十は身が凍えそうな夜を過ごした。でも、そんな事がどうでもいいことのように思えるような言葉が聞こえた。
「母さんに会えるの?」
僕に疑いなんてなかった。母さんが死んだと聞いたのは地下の冷たい牢屋の中。生まれて初めて外に出て、一週間程で母さんの墓石を見つけたが、いつかひょっこり迎えに来るのでは。仮に死んでしまったとしても人が生き返ることにちっとも疑問もなかった。
フフッと可愛く笑う黒いフードを被ったローブ姿の女の人。暗闇の中で顔は見えないけど、きっと綺麗なんだろうと思わせる声だった。
「貴方みたいな小さな子を置いてお母さんが居なくなると思った? 私ならお母さんを生き返す事が出来るって言ったら、信じる?」
そうだ。優しかった母さんが、僕を抱きしめることなく死んでしまうなんてありえない。母さんに会えるなら、生きてようが死んでようがなんだって良かった。
「うん。信じる」
まだ会えると決まってないのに、会えるかもしれないと考えるだけでジワリと眼元が熱くなって、僕の頬に血のように温かいものが流れる。
やっと僕を孤独から救ってくれる人が現れたと思った。
「良かった」
目の前に立つ女の人の口元が嬉しそうにニッコリと笑ってるように、フードから白い歯を覗かせたように見えた。ゆっくりと、女の人は右手を広げて見せてくれた。
「これはね。お母さんを生き返らせることが出来る石なの。この石を握ってお母さんを思い浮かべれば、お母さんに会える」
僕は言葉を全て聞き終わる前に、女の人の右手の掌にある黒い石を奪い取る。
その石は不思議と温かく、なんて言ったらいいんだろう。石の中で誰かが生きてるかのようにトクン、トクンと脈を打っている気がした。
この時、不思議と母さんが生き返ると、絶対的な確信を僕は持っていた。
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