第一章 黒腕の剣銃士

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   一時間半程の時間をかけて荒野へとやって来たクラウスは予想以上に大きな建物を目の当たりにし、立ち止まるとホルスターにあるスプリング、ベルトに括られたサイドポーチの予備の弾薬、レザーシースに納められたナイフに触れ、少しだけ心元がなさそうな表情で建物の入り口へと近付く。  見張りはいないのだろうか、入り口の真正面まで難なく辿り着きドアノブに手をかけつつ耳を澄まし、ゆっくりとドアを開け侵入に成功する。  だが、順調なのもここまでだった。工場の跡地ということもあり広間になっており、隠れる場所など一切なく迷彩柄のカーゴパンツを履いた屈強な男達がクラウスの存在に一斉に気が付く。 「ボス! 奴が隊長を殺した野郎です!」  昨日の荒事の生き残りだろうか。肩に包帯を巻き治療後間もないであろう男が大声を上げた途端に、男達はスナップをホルスターから抜き放ち全ての銃口がクラウスへと向けられる。 「ようこそ! まさか本当に来るとは流石は軍の狗だなァ!」  大声を出したのは二階に居た男だった。迷彩柄のカーゴパンツに、盛り上がる筋肉によりはち切れんばかりのぴちぴちの黒いTシャツを着て、首には高価そうな金のネックレス、銀髪でサングラスをかけた男。吸いかけの煙草を指で弾く。  奥からは白衣を着た茶髪の男が、跪き気を失っているのかグッタリしているフィーネを引きずり現れる。  クラウスは想定外だと言わんばかりに、大きくため息を吐く。それもその筈だ。今の男の口振りだとクラウスの元にあった連絡の情報が漏れているのだ。しかし、黙っている訳にもいかずに口を開く。 「取り敢えずその女を寄こせ。お前たちには手に負えない」  特に交渉に出るわけでもなく、ストレートにクラウス自身の要求のみを伝えた。その様子に二階でクラウスを見下ろす男は煙草に火を付け、つまらなそうに“撃ち殺せ”とだけ言う。  男の指示通りスナップを構えた男達全員がクラウス目掛け集中射撃が始まった。この巨大な鉄筋コンクリートで作られた建物が轟音で揺れるような感覚が襲う。 「カルマンド様。この女は如何なさいますか?」  フィーネを捕らえたままの白衣の男が、コンクリート片や硝煙、巻き上げられた埃で姿が見えないが、クラウスがいるであろう場所を煙草を嗜みつつ見つめる男へと問う。
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