第一章 黒腕の剣銃士

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   カルマンドと呼ばれる銀髪のサングラスをかけた男は、フィーネの前に屈むとゴツゴツとした手で白髪の髪を掴み上げ、ゆっくりと品定めをすると立ち上がる。 「いいんじゃねェか? 俺の寝室に連れてけ」  カルマンドの返答に白衣の男は深々と頭を下げると、ズルズルとフィーネを引きずりながらその場を去る。カルマンドの寝室は二階にある為、階段に転がしてしまうということはないのだろうが、姿が見えなくなるまでカルマンドは見守る。  広間で集中放火をしていた轟音を奏でる銃声の数も減ってきたのか勢いを失い始める。カルマンドは二階の踊り場から広間へと飛び降りた。 「もういい! やめろ!」  カルマンドの声に男達はスナップを一斉に下ろす。傍から見れば訓練が行き届いた腕の良い軍隊に見えるだろう。しかし、蓋を開ければ人を殺し、物を盗むことに喜びを感じる人間の集団だ。この統率された行動はカルマンドへの忠誠心なのか、それとも人間離れした肉体への恐怖心なのかは分からない。  クラウスがいたであろう場所からはコンクリートの壁が崩れ落ちる音と、視界を奪うように鉄粉や埃が大量に舞い上がっている。しかし、その中にゆらりと体を揺らす影があった。 「テメェ等よくやった! フライドを殺した狗っころは倒れる余裕もなく死んでやがるッ!」  カルマンドのその言葉に男達は狂気の声を上げ、まるで祭りが始まったかのように騒ぎ出す。  しかし、その人影はカルマンドへとゆっくりと近づく。舞い上がる白い煙を左手で邪魔くさそうにヒラヒラと扇ぎながら出てきたのは、汚れ一つ付かないクラウスだった。  騒ぎたてていた男達は一瞬で静かになり、辺りからは“化け物だ”“不死身なのか”等と呟く者がチラホラと見受けられる。 「ほぅ。あの銃弾を全部防いだのか」 「そんな訳ないだろ」  全てを悟ったようにカルマンドが放った言葉をクラウスは一周して退ける。その言葉にカルマンドは顔を茹でダコように真っ赤に染まる。 「ふざけんじゃねェ! テメェの異能は知れてんだ! その異様な右手で防いだんだろうがッ!」 「扉の真ん前にいたんだ。外に出るに決まってるだろ」  クラウスはポケットから引っ張り出した煙草に火をつけるが、周囲の煙を吸い込んだのが少し咳き込んだ。
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