第一章 黒腕の剣銃士

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   フィーネは空を切った左腕を見つめたのちに、レッドブラッドの瞳をクラウスへと向ける。 「邪魔するのね」  フィーネはスゥっと眼を細め、クラウスを品定めするように足の先から頭の先までを眺め、そういえばと言うと華奢な腕を控えめな胸の前で組む。 「この子を助けてくれたそうね。そんなことして何が目的なのかしら?」  フィーネの疑問を唱えた言葉にクラウスは特に答える気もない様子だ。察するには、助けた気もなければましてやあの時点でフィーネをどうこうする目的どころか、関心すらなかったのだ。答えを持ち合わせていないというのが本音だろう。  フィーネはその様子に納得がいかないのか眉を顰める。 「口を開けばボロがでるのかしら? どうせ貴方もこの子を危険だと言って傷付けるわ。きっとそう。だから、すぐに殺してあげる」  突然の艶めかしく囁くように放たれた殺害予告めいた言葉に反応したのか、もしくはカルマンドの周囲に異常な程に冷気が漂う事に気がついてかは分からないが、クラウスはスプリングとナイフをそれぞれ納めるとフィーネを目掛け走り出す。  フィーネはクラウスの動きに機敏に反応し、鋭く伸びた爪を自らの頭上から迫るクラウスへと振り抜く。しかし、クラウスの右腕で防がれ、次には彼の右脚により蹴り飛ばされ床に倒れ込む。  瞬時にクラウスは軽快なバックステップを踏みフィーネから距離をとるが、表情には焦りが見える。それを見逃さなかったフィーネが跳ね起きクラウスを串刺しにしようと突き出した左手の爪は、海の荒れ狂う波のような波状の氷の壁によって阻まれる。 「化け物同士の戦いに付き合ってられるかァ! 俺のチェインアーツでまとめてブッ殺すッ!」  クラウスの見せた焦りは、カルマンドの言うチェインアーツへの畏怖だった。実際にクラウスは完全には避けきれずに左腕に大く深い裂傷を負っていた。まともに真正面から受けたとするならば、剣山に二メートル程上から落とした豆腐のようになっていただろう。  フィーネは初めて見る光景に驚いた表情を見せるが、すぐに落ち着きを取り戻し鋭い眼光をカルマンドへと向けた。
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