第一章 黒腕の剣銃士

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   ふらふらと蹌踉めきながらもクラウスはフィーネの前へと行くと、しっかりと眼が合わせられるようにとしゃがみ込む。それに気が付くフィーネは絶望に似た表情ながらも、多少なりの殺気を宿した瞳をクラウスへと向ける。 「貴方も、この子を研究して殺すのが目的なのね」  その言葉にクラウスの表情がとある疑問で歪む。 「その“この子”ってどういう意味だ?」  今度はフィーネの表情が絶望に動揺を織り交ぜたものへと変わり、瞳は左右へ小刻みに揺れる。  しかし、その様子を見たクラウスは“悪かった”とだけ言うと、フィーネが力強く抑える傷口を確認しようと右手を伸ばす。 「触れるなッ!!」  血の付いたフィーネの左手が鋭く伸ばした爪を振り回し、咄嗟に身を引いたクラウスの左眼に当てられた眼帯を裂いた。だが、致命傷を避けられたことにフィーネは苛立ちを覚え、反した左手をクラウスの腹部へと突き刺す。  眼帯がはらりと落ちる瞬間。クラウスは出血の酷い左腕を動かしてまで左眼を隠す。  腹部へ刺さるフィーネの左手はクラウスの右手が手首を捕まえたことによって貫通を免れる。  痛みで苦痛の表情をするクラウスだが、スパークゴールドの右瞳で真っ直ぐフィーネの顔を見る。 「お前……そのままじゃ」 「この期に及んで脅しに――」 「片割れが消えるぞ」  クラウスの言葉にふと一瞬だけ力が抜けたのを見逃さずにフィーネの左手を自らの腹部から引き抜き、倒れ込みながらフィーネから距離を取る。  フィーネのレッドブラッドの瞳から徐々に光が失われていく。 「なんで貴方が分かるのよ……」  クラウスは左手で腹部の傷を押さえながら、立ち上がることも叶わず天井を見ている状態だった。さっきまで必死に隠していた左眼は閉じている、というよりは古傷が大きなもので左眼が開くのかどうかすら分からない。 「悪いが答える気はない……殺したきゃ殺せ。俺は元々お前と殺り合うつもりないんでな」  クラウスが諦めたように大きな溜息を吐くと腹部を押さえていた左腕を投げ出し、言葉の通り殺されるのを待つかのように大の字になり右眼を瞑る。
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