第一章 黒腕の剣銃士

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   クラウスの言葉を聞いたフィーネはゆっくりと立ち上がり、クラウスの横へと両膝を付き座る。血濡れた左手の爪だけがクラウスの喉元へ突き付けられる。 「なんでこの子がここにいると分かったの?」  フィーネの声は威嚇をするものではなく、知らない事を知ろうとする純粋なもので声には柔らかさがあった。  クラウスは指先一つ動かすことなく、口だけを開く。 「本人から聞いた訳じゃない。ただ、無理してでも守りたいものがあるんじゃないかって」 「……それだけで?」 「あぁ。違えば別なとこを探すだけだ。こうなっちゃツイてるのか、ツイてないのか……」  フィーネは押し黙る。少し考えるように眼を伏せ、更にクラウスに問い掛ける。 「貴方はなんでこの子を探してたのかしら?」 「IGWの指示だ。お前をニューブラスカまで連れてくのが目的だ」  フィーネは“連れて行く”というワードが引っ掛かるらしくクラウスの首に鋭い爪が血が出る程度に触れる。 「その後、この子はどうなるっ!?」  気迫の篭もるフィーネの声にクラウスは右眼を薄っすらと開ける。 「知るかよ」  返ってきた言葉は淡泊だった。しかし、フィーネはこんな“人間”を見たことがなかった。死ぬ間際にいるにも関わらず命乞いする訳でもなく、ましてや嘘を言っているようにも見えないのがどうにも不思議なようだ。そこにクラウスが“でもな”と言いながら再度右眼を閉じる。 「ニューブラスカまでは間違いなく保護してやる」 「私より弱い貴方が?」  フィーネの左手の力が抜かれる。それを感じてかクラウスは“あぁ”と短く返す。その小さく短い返答にフィーネのレッドブラッドの瞳の光が消えかける。 「そう。……もし、この子に何かあったら許さない――」  次の瞬間、クラウスの喉元にフィーネの肘鉄が入る。同時にクラウスの腹部の傷口を圧迫するようにフィーネが覆いかぶさる形で倒れる。
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