第一章 黒腕の剣銃士

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   もし腕が、もしくは体が動けばきっとフィーネを押し退けるであろうクラウスだが、顎に決まった肘鉄と全体重を掛けられることは予想すらしていなかっただろう。しかし、中途半端な傷口への圧迫はクラウスにとって死活問題だった。 「……どうもツイてないな」  自分の運のなさにぼやきつつ、右眼と共に左眼が薄く開く。スパークゴールドの右眼の瞳に、レッドブラッドに光る左眼の瞳。しかし、左眼はすぐに閉じられた。  自嘲するように小さく笑い。何かを確認し安心したのか意識を手放しそうになった途端にフィーネがむくりと上半身を起こし、血塗れになった自分の手と目の前に横たわるクラウス、周囲の異様な光景を見て呼吸を荒げる。その時にはフィーネの瞳はブルーサファイアのものに変わっていた。  呼吸もままならず、幾度となくこの光景を眼にしてきたフィーネだが涙が溢れる。しかし、クラウスの胸が微かに動くことに気がついたフィーネは恐怖と安心の狭間にいるのか、まるで呼吸することすら忘れたかのようにピタリと動きを止めた。 「おい……」  ビクリとフィーネの肩が飛び上がり、薄く右眼を開けているクラウスに気が付き慌てて耳をクラウスの口元へと持っていく。 「街に、うさぎの洞穴って宿がある……お前の心配してる奴が――」  フィーネはクラウスの言葉を最後まで聞くことなく銃撃でボロボロになったドアへと走っていき、相当ドアが歪んでいるのか何度も体当たりをして開くや否や外へと駆けていった。  クラウスはその光景を途中まで見つめることしか出来ずに、意識を手放した。  クラウスから数メートル離れた場所にカルマンドのチェインアーツによって作られた波状の氷の壁と、巨大な氷柱が砕け散り周囲に氷塊が転がった。
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