第一章 黒腕の剣銃士

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   セリアとフィーネの会話を聞いていたシルフィは、リンドがいるであろう地下の食堂へと走っていく。セリアはフィーネをロビーのソファーへと座らせた。  セリアはフィーネに聞きたいことがあるものの、無表情ながらも焦りを隠しきれないフィーネの様子を見て言葉を飲み込む。  そこへ慌てた様子のリンドがセリアとフィーネの元へとやってくる。 「彼のところへ案内してくれるかい!?」  フィーネはソファーから立ち上がり、こくりと頭を縦に振るとリンドの後を着いて宿から出ていく。セリアも行こうとしたがシルフィに止められ宿で皆を待つ事になった。  リンドと一緒に外に出たフィーネは街の外れまで小走りで十五分程行くと、車がずらりと停められた駐車場がある。場所が場所だけにSUV系の車がずらりと並び、リンドが乗り込んだ車の助手席にフィーネが乗る。 「歳はとりたくないものだ。君のケガは大丈夫かい?」  息を切らし辛そうな表情を浮かべたリンドは、シートに体を預けぐったりとするフィーネに声をかけるが、フィーネは首を縦に小さく何回か振り、駆けてきた道筋を指差す。  フィーネの様子を心配そうに横目で見送りながらも車のエンジンをかける。車の大きさの割に音は小さくほのかに芳醇な香りが排気ガスとして放出された。  リンドはフィーネが指差す方角へとハンドルを切り荒野を激しく車を揺らしながらもアクセルを踏み込み突き進む。フィーネは経験のない揺れとスピードに身を縮め廃工場へと指先を向ける。  フィーネが一時間近くかけて走った距離だとは思えない程に早く目的の建物が見える。 「奴等の住処じゃないか……」  リンドはその建物を見るなりアクセルを放し、車速がみるみる落ちていく。  リンドの言う奴等とはバクノートで、数年前から居座り悪戯に住人を無差別に殺害するハードランディングと名乗るテロ集団の事だ。あと数十メートルという所で車は停止し、リンドの表情は険しくなる一方だった。 「彼は……あの中に?」  その言葉に首を縦に振ったフィーネは助手席から飛び降り、廃工場へと走る。リンドの制止を試みた左手は空を切り、運転席に根が生えたかのように動かなくなった。冷や汗がリンドの健康的に焼けた小麦色の頬を伝う。  フィーネは既に建物の歪んだドアを開こうと引っ張るが、パリパリに乾いた掌の血で金属製のノブを引こうにも力が入らず、ドアは揺れるだけ。
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