序章 最初の敗戦

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  「さぁ、強くお母さんを取り戻したいって願うの」  女の人の声に反応するように、石を両手でそっと覆い、眼を瞑って僕が覚えてる限りの優しい母さんを何度も思い浮かべる。  両手で覆っていた石が、水をかけられ崩れる泥団子のように僕の手からなくなっていく。足元に青白い文字ようなものがいっぱい浮き上がる。  元々、文字が読めない僕にはさっぱりだ。 「お母さんの名前を貴方が呼ぶの。魂はここまで帰ってきてるよ」  母さんの名前。ずっと母さんと呼んでいて、母さんの名前がパッと出てこない。ずっと昔、聞いたことがある。思い出せ。思い出せ……っ。  墓石に名前が彫ってあるのは知ってるのに、これ程まで文字を読めないことを恨んだことはなかったと思う。 (――ミカエラ。ミカエラ・ルシファー・ブランケンハイム)  突然頭の中に、目の前に立つ女の人の声が直接響くように聞こえる。何故、母さんの名前を知っているのかは分からないが、僕にとっては都合が良いことに変わりはなかった。 「ミカエラ」  母さんの名前を呼び捨てする時が来るなんて想像もしたことなかったが、少し気恥ずかしいのと、もうすぐ会えるといった嬉しさと緊張が混ざり合うが、足元の青い光が動き出し女の人と僕の間へと引きずられるように移動すると、更に強く輝きだす。  生まれて初めてみる魔法陣。ヘキサグラム(六芒星)を囲むように円が描かれており、見たことのない文字が散りばめられている。 「おめでとう」  女の人がそう言うと、魔法陣の青い光が一瞬爆発的に発光する。僕はまるで太陽の光を直視してしまったような感覚になる。ぼんやりとしか見えない。 「まだ未完成だけど貴方のお母さんが戻ってきたわ」  そうは言われてもまだ眼が眩んでいて見えないが、ぼんやりと見えたのは影のように黒い人影が見える。
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