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想像以上に軽いクラウスを後部座席へと寝かせるが傷の割に出血が落ち着いていることにリンドは疑問を持つが、クラウスの体をフィーネに押さえているように頼むと運転席へと飛び乗る。ハンドルをしっかりと握ったリンドはバクノートを目指す。
バクノートの街の中へ車での進入は禁じられているがリンドは人が賑わう中心街まで進み、うさぎの洞穴が見えるかどうかまで来た所で一人の藍色の軍服を来た憲兵が銃口を車に向けつつ、リンドが走らせる車の前へと飛び出してきた。慌てて急ブレーキを踏み、耳を刺すような音を立てながら憲兵飛ばす寸前で停まった。その頃には騒ぎになっており多くの憲兵が集まる。
「貴様、宿屋の店主だな? 車両の進入は禁じているのは知っているな? 降りろ」
憲兵に指示されるように降りたリンドは数人の憲兵に囲まれ、乱暴に取り押さえられる。
「ッ! ま、待ってくれ! 車の中にケガ人が居るんだ! 助けてくれ!」
リンドの言葉を聞いた数人の憲兵が後部座席のドアを開けると、横たわるクラウスと庇うように腕を広げるフィーネがいた。
「おい、貴様は降りろ」
憲兵はそうはいうもののフィーネの胸ぐらを掴み車外へと引きずり出す。あまりにも乱暴に引っ張られたフィーネは地面へ背中から落ち、苦しそうに咳き込む。
次にクラウスを引っ張り出し地面へ転がそうとした時、クラウスの黒い右腕がその憲兵の胸ぐらを掴み倒れ込むことなくゆらりと立ち上がる。
見るからに重症のケガを負った男が立ち上がったのを目の当たりした憲兵は驚きを隠せずにいた。
「き、貴様、誰に掴み――」
「他にやる事……あるんじゃないのか」
憲兵の胸ぐらを放すとカーゴパンツのポケットからホードを取り出し、廃工場の場所を示す地図を見せる。
「ここは……ハードランディングの」
憲兵の表情は苦虫を噛み潰したような表情に変わり、クラウスから眼を逸らす。しかし、ホードをポケットにしまい近くの街灯の柱へ体を預けたクラウスは“行けよ”とだけ短く言い切る。
「っ……貴様に何が分かる!」
「あそこに……動ける奴はもう居ない」
それだけを言ったクラウスは面倒そうな表情を見せながらも、立っている事が限界なのかズルズルと柱に凭れながら座り込む。
一部始終を見ていた周りを囲む野次馬の視線とクラウスの言葉に憲兵達はバツの悪い表情をしながらもリンドを抑え込む。
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