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眼の前に夜独特の暗闇が戻ってくる。徐々に視界が開け、僕の眼の前に居るはずの母さんを見る。
「母……さん?」
でもソレは母さんというよりも、人であるかも疑わしいものだった。曇りがあり、光沢が一切ない金属のように冷たく、重たい黒い人型の塊という方が僕にはしっくり来た。
ソレは両膝を地面について、項垂れるように下を向いていたが、ゆっくりと音もなく立ち上がり、レッドブラッドの両眼が僕を捉えるように向けられる。
「ク……クラ、ウス?」
心臓が跳ね上がるような気持ちだった。黒い塊が発した声は母さんのもので、呼んだ名前は母さんが僕につけてくれた名前だ。
「母さん!」
母さんに触れるまで後一歩だった。
「クラ、ウス……来ちゃ……ダメ」
ポツリと何かを伝えようとしたのは分かったが、何を言ったのかまでは聞き取れなかった。
母さんの右腕がぎこちなく動き、僕の頭の高さまで上がり、頭を撫でてくれるのだろうかと立ち止まりまった。
でも、一瞬だった。眼に止まらぬ速さで僕の顔を目掛けて向かい動く。
「ヴぁあ……眼が――ッ」
――左眼の視力を失った。
最後に見えたのは、黒い指先。その後は躊躇なく左眼を潰され、くり抜かれる。咄嗟に眼球を失って左手で抑えるものの、血が止まらない。痛みで瞼が閉じているのか、開いているのかも分からない。残された右眼で母さんを見るが、僕はどんな顔をしてただろう。
ソイツは僕の眼球を両掌で保湿クリームを伸ばすかのように潰すと、顔に塗りたくる。でも、その光景の後が僕を絶望のどん底へと突き落とすには十分過ぎた。
まるで木炭で黒く塗り潰された部分を洗い流したかのように、紛れもない母さん顔が現れた。それは母さんが僕を殺そうとしたという現実でもあった。
「な……なんで? どうして――」
僕の隣に誰かが来た。
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