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女の人がそっと僕に囁く。
「貴方の血でお母さんは元に戻るわ。きっと今はとても苦しくて貴方を分かってないのよ。人が生き返るのはとても大変なことだから」
――じゃあ、僕はどうすればいい。
ゆっくりと考えている余裕はないのは明白だ。顔は母さんに間違いない。しかし、レッドブラッドの眼で、喜びを得ているだろうであろう表情で僕の眼の前に立ちはだかる。
――母さんじゃない。
僕の中でそう思う気持ちが強くなる。
――コイツを押し倒してでも逃げよう。
同時に、どうにかして母さんを助けたいという気持ちもない訳ではなかった。でも、左眼の痛みは想像以上。大きく脈を打つように痛みの波が押し寄せる。
浅はかな考えで直感で動いたのは失敗だった。
右手でソイツを押し退けようと触れる寸前で手首を斬り飛ばされる。ソイツの左手は剣に変化していた。同時に僕の血に濡れたソイツはみるみる内に母さんの姿を取り戻していく。
「――っ!?」
幾度重なる激痛と大量の血液を失うと、人間は声も出ず立ち上がる力も抜け、思考も血液と一緒に流れ出てるんじゃないかって感じる程に、何も考えられないのだと知った。
ソイツは手首を拾いあげ、まるでシャワーを浴びるかのように頭上高くから手首から先を雑巾のように絞り、鮮血を浴びる。もう既に傍から見れば、血に濡れた全裸の女性だろう。
肉片と化した僕の手首は雑に地面へと捨てられ、ソイツの人の肌をした左手は漆黒の剣へと姿を変える。そして僕の右肩の鎖骨を切断するように突き刺さる。更にバッサリと右肩を斬り落とされる。
――もう、何も分からないや。
真っ黒な雲をいつの間にか見上げるように倒れ込み、まっすぐに雪が降ってくる。
僕はゆっくりと、意識を失う中。本当の最後に眼にしたものは、母さんが涙を流し崩れ落ちながら、自らを傷付けるように四肢を引き千切る姿だった。
同時に、フードを被った女はその光景を見ると同時に、僕に背を向け去っていく。
また僕は、独りだ。
母さんが泣き叫ぶ声と、温かいと感じる返り血を浴びる。もう指一本すら、瞼を開く力も入らいない。なんだか、もう感覚がないんだと思う。
――体が冷たくなるのが分かった。
不思議と怖くなかったような気がした。何か僕では敵いそうもないような、よく分からない力に守られている。そんな気がした。
――それから、十年。
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