第一章 黒腕の剣銃士

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   春先。  春先といってもインヴァース共和国の西に位置するこの地域は年中暖かい気候の地域の為、黄緑の月十三日目といった方が正確だろう。  年中温かいためバクノートでは豊富な農作物で有名な街なのだが、ここ数年はとある問題を抱えていた。  夕刻の茜色に染まった空の下、白いワンピースに黒いタイツを身に着け、シルクのように綺麗な白い長髪の若い女性がひび割れた煉瓦造りの道路の片隅に膝を抱えて座り込む。  狭い路地裏の道には、同じ格好をした人が行き交い、あるいはヤク中、アル中になった人達が座り込み何事か喚いている。 「次は白髪の女だ! 連れて来い!」  どこからか野太い男の怒鳴り声が響くと、ぼぅっと行き交う人々を眺めていた若い女性が、筋肉隆々の迷彩柄のカーゴパンツに黒いタンクトップを着たスキンヘッドの男によって、白く長い髪を無理矢理引っ張り立ち上がらせていた。  スキンヘッドの男は銃口を女性の顎下へと当てながら、下品に歪めた口元を白髪の若い女性の耳元へと寄せる。 「お前はいい女だ。俺の女になるなら駆除の対象外にしてやるが、どうだ?」  へへへっと下品に笑い命乞いの言葉を待つ男だったが、一切表情も変わらず口を開く様子のない女を確認すると、乱暴に引きずるように路地の奥へと連れて行く。  しかし、奥に進むにつれて様々な悲鳴や呻き声が大きくなる。同時に、乱暴に放たれる乾いた銃声も幾度となく聞こえる。  白髪の女も路地から出た広場に放り出され、息絶え血を垂れ流す老若男女の中に、傷だらけになりながら逃げ惑うピンク色のワンピースを着た少女が居た。 「お、お姉……さん」  一切表情を変えなかった白髪の女は傷だらけながら生きている少女を見て微かに安堵の表情を見せたが、銃を握る迷彩のカーゴパンツに黒いタンクトップの金髪の男が弾の装填をする様子を、憎しみを込めたブルーサファイアの瞳が睨み付ける。  少女が白髪の女の元へと駆け寄る。 「お姉さん! 逃げよ!? 死んじゃう!」  そう白髪の女は逃げる様子もなく、ただ立ち尽くし弾の装填を大人しく待っているようにも見えたのだ。しかし、白髪の女は穏やかな表情を少女に向けると、少女を自分の後ろへと誘導する。 「お姉さん……勝てるの?」  少女の希望に満ちた問いかけに対する反応は早く、顔をふるふると横に振る。ただ、白髪の女は少女の小さな手を握った。
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