三味線猫が鳴く

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 沙紀が来たときは、すでに陽が沈み夜になっていた。 「こんばんは」 「沙紀、遊ぼう」 「あ、ごめんね。アキちゃん、相談事があるから後で遊ぼうね」  アキは残念そうな顔をしてコクリと頷き、「彰俊、早く解決しろ」と服の袖にしがみ付いてきた。  彰俊は笑みを浮かべて、アキの頭を撫でた。座敷童猫のアキのこういう甘えた態度は可愛い。猫なんだなと思える瞬間だ。 「もしかして、その袋は例の三味線かな」 「あ、そうなの。これが、なんだか変なのよね。急に三味線持って彰俊くんに相談したくなっちゃったのよね。気づいたらメールもしていて、ここに向かっていたの」  頷きつつ、沙紀が袋から三味線を取り出して差し出してきた。彰俊は三味線を受け取って裏表を確認する。沙紀はおそらくこの三味線に操られてしまったんだろう。 「痛い。やめろってアキ」  袖を掴んでいたはずのアキが、二の腕をギュッと鋭い爪を出して掴んでいた。 「ごめん、つい」 「どうしたんだよ」 「だって……」  アキは三味線をじっとみつめている。何が言いたいのだろうか。 「やはり唐変木だな。その三味線も猫なんだろう。アキは自分の場所を犯されていると感じているんじゃないのか」  ――そうか、猫は縄張り意識が強いからな。よそ者が来て、警戒しているのだろう。 「大丈夫だよ。アキは俺の家族だろう」 「家族……」 「そうだ、家族だ。なんかあったら守ってやるから。それにこいつとも仲良く出来るはずさ」  安心したのか、アキは少し離れて部屋の隅に腰を下ろした。よそ者の三味線猫の様子見というところだろうか。今は猫の姿を見せてはいないが、夢で見た通りこの三味線は猫が宿っているのだろう。三味線の皮は猫の皮を使うこともあるっていうからな。 「彰俊くんはいいね。楽しそうで」 「えっ、楽しそう?」  ――俺は楽しいのだろうか。なんだかんだ言って楽しいのかもしれないな。
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