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こいつらと出逢ってからというもの実家暮らしから一人暮らし始めた。実家で独り言ばかり口にする息子を不審がられてはかなわないからな。両親には、物の怪のアキは見えない。時歪は単なる懐中時計としか認識出来ないだろう。
一人暮らしは気楽でいい。自炊や掃除は面倒臭いけど。
そんなこと、今はどうでもいい。三味線だ。猫に姿を変えるはずだけど。
「沙紀ちゃん、この三味線が猫になるところ見たりしていないかな」
「猫?」
しばらく考えたあげく沙紀は首を左右に振った。
「そうか、おそらくなんだけど。こいつは時歪と同じ付喪神だ。ただ、人ではなく猫になるみたいだけど」
「おい、おいらは人にはならないぞ。手足が生えるだけだ。人っぽい姿だがな。そこんところ覚えておけよ」
「ああ、すまない」
あれ、阿呆とも唐変木とも口にしなかったな。呼ばないほうがいいけど、なんとなく肩透かし食らった気がしてしまう。
「あの、この三味線が動くってことなの」
「まあ、そういうこと」
沙紀が感心していると、隅っこで置物のようにして座っているアキがボソッと一言「寝ている」と呟いた。
寝ている? アキは眠くなったのかな。そう思い、アキのほうに振り返ると、三味線を指差していた。三味線が寝ているということなのかも。
「猫はよく寝るからな。ついでに、おまえらも一緒に寝てもいいぞ」
時歪の言葉に、沙紀は顔を赤らめていた。きっと、自分も同じだろう。
「邪魔者は退散した方が良さそうだ」
続けて時歪が言葉を綴り、アキを促しどこかへ行こうとした。
「おい、待てよ。寝ないぞ俺は。今は、この三味線をだな」
「わかっている、阿呆。からかっただけだ」
時歪は高らかに笑い声をあげた。その笑い声に反応するように、三味線が変な音を奏でた。びゃびゃびゃぁ~と。
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