三味線猫が鳴く

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 ここ最近、この近隣で起きている放火魔のことだった。あの放火魔は、操られているとシャセは断言した。 「ほほう、お主がやらせたのか」  時歪が口を挟んできた。しかも失礼な言種だ。彰俊は口に人差指を当てて黙るように訴えた。まあ、言うことを聞くような奴ではないが。 「そうではありません。小生と同じ力の持ち主がもうひとりいるのです。犬の皮で作られた三味線犬のインセというものが」 「へぇ、犬の皮でも三味線って作られるんだな」 「そんなことも知らぬのか。そうか阿呆だから仕方がないな」  本当に腹が立つ奴だ。いっそのことどこか遠くまで放り投げてしまおうか。もちろん、本気でそんなことをするつもりはない。 「放火魔、また現れるかも」 「えっ、どこに」  アキがいつの間にかすぐ脇で話に加わっていた。少しはシャセに慣れてきたのかもしれない。 「そうなのですか。先日、放火魔が逮捕されたと報道がありましたよ。まあ、操られているのであれば、また放火魔が現れてもおかしくはないですけどね。根本的な解決には至っておりませんから。おそらく、捕まった犯人もなぜ放火をしてしまったのか不思議でならないはず」  なるほど。ならば、また誰かが操られて罪を犯すことがあるということか。 「あの、ごめんなさい。ちょっとだけいいですか」  沙紀が申し訳なさそうに口を挟んできた。そうだ、沙紀もいたんだった。三味線猫シャセの話に聞き入ってしまって忘れていた。こっちこそ申し訳ない。彰俊は、沙紀に話を促した。 「犬の皮で作った三味線って、もしかしたら叔母さんのところにある三味線かもしれません」 「知っているの」  沙紀は頷いた。  沙紀の叔母は骨董屋らしく、ちょっと不思議な三味線を買い取ったとの話を耳にした覚えがあると沙紀が話した。 「善は急げ、今から行こう」 「阿呆、ダメだ」 「なんで」 「腹が減り過ぎだ。明日にしたほうがいい。メシだ、メシの支度をしろ」  まったく偉そうに。 「アキも、ペコペコ」 「それじゃ、私が夕飯の支度をしましょうか」  思わぬ展開にニンマリしてしまう。沙紀の手料理が食べられるとは天にも昇る心地だ。ってそれは大袈裟かもしれないな。
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