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あの部屋を見てしまってから真野は掃除を口実に休みの日に信崎の所へ行くようになった。
信崎は家の事をするのがあまり好きではないようで、助かるよと言いながら真野に全てを任せてくれる。
真野が掃除や洗濯をしている間、信崎はソファーに座って本を読んだりテレビを見ている。
信崎の為に何かをしてあげることが嬉しい。
何か面白い事があると呼ばれて、ソファーに並んで座り一緒にそれを見たり、掃除をしている自分を見ている信崎の視線を感じ、意識してしまう時がある。
そんな些細な事が幸せで、信崎が好きだと胸が熱くなる。
「真野、いつも悪いな」
そう、時折、大きくてゴツイ手で、頭を優しく撫でてくれる。それがすごく嬉しい。
掃除が終わると俺を駅に送りがてら昼をご馳走してくれる。
真野はこっそり心の中で「ランチデート」と思いながらその時間を楽しみにしている。
「そうそう、今度の土日に泊まりに来る奴がいてさ。掃除はいいや」
その言葉に、楽しい気持ちは一瞬で吹き飛ばされる。
泊まりに来る人は家族なのか、それとも恋人か。
もし、後者だとしたら。
そう思うと胸が押しつぶされそうに苦しみだして。それに耐えるように真野は無理やり笑みを浮かべる。
「わかりました。部屋、汚しちゃ駄目ですからね」
「はい。出来るだけ頑張ります」
そう自身無げに言う信崎に、真野は頑張ってくださいと言い。すっかり食べる気が失せてしまったが、残っている食事をムリヤリ口の中へ詰め込んでいく。
全く味を感じなくなて、食べる事がとても辛い。
いつもは残さず食べるのに、今はとてもではないが無理そうだ。
信崎と話しながらゆっくりと駅へ向かう。それもデート気分を味わえて真野にとっては大切な時間なのだが、今日は買い物があるからここでと言い店を出てそのまま別れた。
一人になると信崎の家へと泊まりに来る相手の事ばかり考えてしまい、女性とベッドで抱き合う姿を思い浮かべて落ち込む。
信崎はだらしない所があるが、見た目も中身も良い男だ。彼女が居ない訳がない。
部屋に女性っ気を感じなくて安心していたが、彼女の所に泊まっているかもしれないと、どうして思わなかったのだろう?
信崎が何も言わない事を良い事に、毎週、休みになると押しかけて。それも、遠慮しないといけないかもしれない。
でも、会社に居る時だけは、後輩として甘える事を許してほしい。
そう心の中で思うと、真野は胸の当たりでぎゅっと手を握りしめた。
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