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ガチャりとノブを回し、誰もいないはずの部屋へ入ろうとした俺の足は一歩踏み出したまま固まってしまった。
誰か…いる?
窓辺に寄って空を眺める後ろ姿が目に飛び込んできた。
普通に考えれば先客がいたと思うだけだったが、よく見るとその後ろ姿から窓枠が透けて見える。
着ているのは普段自分たちが着ている制服と同じたが、射し込む月の光に今にも溶けてしまいそうな儚さ。
明らかに自分とは違う何かなのに不思議と恐怖は感じなかった。
『こんばんは』
「あ…こんばん…は…」
いつの間に振り向いたのか、窓辺の彼は驚く俺とは対照的に、穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見ていた。
これはやっぱりアレなんだろうか。
いわゆる幽れ…
『僕幽霊じゃないよ』
「えっ!?」
心を読まれたかのようなタイミングで返ってきた言葉に一歩身を引く。
『後ろ、閉めた方が良くない?見廻りの先生に見つかっちゃう』
「あっあぁ…そうだな」
なるべく音をたてないように言われた通りドアを閉める。
そして気づいた。
なぜ自分は逃げずにとどまってしまったのかと。
『逃げちゃうの?淳也くん』
「!?」
『ごめん…気持ち悪いよね』
先ほどまでの穏やかな表情とうってかわって悲しげに曇った顔に俺は焦って首を横に振る。
はじめに彼の姿を見たとき同様、やはり恐怖はなかった。もちろん気持ち悪くもない。
ただただ不思議な驚きに満たされるばかり。
「名前…なんで」
やっと絞り出した声に、彼はまた穏やかに微笑んで静かに話し出した。
『僕の名前はミズキ。僕のほんとの体はどこかで眠ってるの。体が眠っている間、僕はこうやって外の世界を見に出てくる事ができる』
そんな嘘みたいに現実味の無い話、どう解釈したら良いのだろう。
信じるべきか、否か。
悪霊の類いでは無さそうだけれど、変に刺激しても良いことはない気がする。
『…悪霊じゃないもん』
「ごめん」
思わず頭を下げた俺に、今度は彼、ミズキが慌てたように頭を振った。
『謝らないで!僕こそごめん!久しぶりにここで話が出来たのが嬉しくて』
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