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頭を上げさせようと伸ばされた手が視界に入る。
しかしそれが自分に触れる前にきゅっと握り混んで引き戻された。
不思議に思って顔を上げると困り顔のミズキと目があった。
『触れないの忘れてた』
そう言って窓に取り付けられたカーテンに触ってみせる。
正確には、触ろうとしてすり抜ける自分の手を。
『幽霊ではないつもりなんだけど、これじゃあわからないよね。おまけに人の心が読めるなんて…』
自嘲気味にミズキが笑う。
『気持ち悪いよね』
「そんなこと無い!」
打ち消すように叫んだ俺にミズキは驚いて目を見開いたあと、フワッと花がほころぶように笑った。
『嘘じゃない。嬉しい』
もともと難しくあれこれ考えることが苦手な俺の心は分かりやすく偽ることをしない。出来ない。
「起きている時もその能力使えるの?」
傍らにあったベッドに座って好奇心丸出しでたずねる。
使われていないベッドには布団もなく、腰かけるとお尻が痛いがミズキには関係ないだろうと隣を進める。
『うん、痛くない』
俺の心の呟きに正確に答えを返すミズキにだんだん楽しくなってきた。
やましい事がないからだな、と1人納得している俺を見てミズキが笑っていることに、単純な俺は気づいていなかったが。
『起きている時は使えないみたい。でもそもそもこの姿で誰かに会うことが無かったから淳也くんで二人目。僕体弱くてさ、手術でなんとか助かったんだけど、そのせいで同じ病気だった兄さんは死んじゃった…僕が先に手術を受けたから…』
「ミズキ…」
『どうせ能力が手に入るなら時間を戻せる力が良かった。そしたら絶対兄さんを助けたのに』
悔しげに握る手に俺はそっと手を重ねた。
ぬくもりは伝わらなくても、この気持ちが伝わればいい。
「でもそしたら俺は今日ミズキに会えなかった。それは嫌だよ」
ミズキの頬を一筋の涙が流れた。
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