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夜の9時、消灯の時刻。
6人の共同室の中で布団を被り静かに目を閉じる。
あれからどれくらいの年数が経っただろうか。
刑務所の中で俺は気の遠くなるような月日を過ごしてきた。
ここでは起床から就寝まですべての時間が厳格に決められ、そのおかげで強制的にだが規則正しい生活を送ることができている。
ろくに家に帰ることもできなかったあの頃よりもよほど充実した時間を過ごしている気分だ。
今日は両親との面会日だった。
俺が刑務所に入ってから何年もの間ひと月も欠かさずに両親は俺に会いに来てくれる。
2人とも最初は酷く動揺していた様子だったが、最近はもう以前と変わらない優しい雰囲気で俺に接してくれている。
そんな両親に対して俺は何一つ恩返しできていない。
今日の面会も他愛もない話から始まった。
最近は急に寒くなってきたこと、妹がやっと結婚を考えるようになってきたこと、そして俺の前の勤務先にいた坂口が交通事故で亡くなったことを聞いた。
坂口のことは驚いたが、お気の毒に、という言葉以上の感情は出てこなかったのが正直なところだ。
あの会社のことを思い出すたびに自分の犯してしまった罪の大きさを再認識させられる。
俺は生き方を間違えてきた。
何もかも周りに頼りきって、それと一緒に責任まで周りに押し付けてきた。
だから自分一人で決めた決断に自信を持てず後悔ばかりしてきた。
しかし自分の決めた選択に「合っている」も「間違っている」もなかったのだ。
大事なことは自分の決めた選択に「責任を持てるかどうか」、そこだけだった。
このことに気付くまでに何十年という時間を費やしてしまった。
もっと早くに気付いていればどれだけ充実した人生を送ることができたのだろうか。
もしもう一度だけ時間を巻き戻せられるとしたら俺はこう願うだろう。
“人生そのものをやり直したい”と……。
突如現れた眠気に襲われ意識が薄れていく。
目の前にあった光景がどんどん遠ざかっていき、やがて小さな光となっていった。
――目が覚めると、若い男女が優しく微笑みながら俺をのぞき込んでいた。
ここは病室なのだろうか。
何だが体全体が火照ったように熱く、視界がぼやけている。
女は幸せそうに俺に語りかけた。
「あなたの名前は和希。男の子に希という漢字は珍しいけど、そこには希望を持って日々を過ごしてほしいという私たちの願いが込められているのよ」
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