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「――だからさぁ! 何でそうなったのか俺に分かるように説明しろって言ってんだよ!!」
「いやっ、あの、昨日は本当に油断していて、その、いつの間にか、その……」
「あぁ!?」
黒岩は応接室のテーブルを思いっきり蹴とばした。
「油断していて、で済まされる問題じゃねーだろうが! お前が昨日無くしたデータの中にはうちの製品の詳細なデータやら取引先のデータやらがたんまり入ってたんだよ! あれだけデータの取り扱いには気を付けろっていつも言ってただろうが!」
「はっ、はい! す、みませんで」
「だからすみませんじゃ済まされねーんだよ!!」
今度はテーブルに向けて両手を強く振り下ろす。
どうしてこんなことになってしまったのか。
昨日の自分の行動をいくら思い返しても、この場を切り抜ける都合の良い言い訳は何一つ浮かんでこなかった。
昨日の俺は心底疲れ果てていた。
毎日毎日残業の嵐。終電で帰れればまだ良い方で、そのまま会社に寝泊まりすることもしょっちゅうである。
ボーナスも有給もこの会社では求人票の飾りでしかない。まともな休みを最後に取ったのはいつだっただろうか、それさえも思い出せない。
そしてそこに追い打ちをかけるのがこの営業部長の黒岩だ。
こちらが忙しいことを分かっているくせにどんどん仕事を振ってきやがる。
そのくせ自分はろくに仕事もせず、日中こいつがやることといえば電話で誰かと大笑いしながら無駄話をしているか、若い女性社員にセクハラまがいなことをしてニヤニヤしているかのどちらかだ。
昨日のデータ紛失のことだって元はと言えばこいつが悪い。
「明日の打ち合わせで使うから」と言いながら膨大な量のデータを俺のパソコンに送り付け、「今日中にまとめておけよ」といつも通り無理難題な仕事を突然振ってきたのだ。
当然終業までに終わるはずもなく、仕方なくデータをUSBメモリに入れて家で残りをやることにした。
いつもならそのまま会社に寝泊まりするところだが、昨日は会社にもいたくない気分だった。
でも、その判断が間違いだった。
USBメモリと会社の資料を入れた手提げ袋を帰りの電車の網棚に置き忘れてしまったのだ。
そのことに気付いたのは家に着いてからしばらく経った後で、すぐに鉄道会社や警察に問い合わせたがいまだ見つかったという連絡はない。
「なあ村田ぁ!! 聞いてんのか!? どう責任取るつもりなんだ!?」
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