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俺は確かに、朝一に応接室で黒岩に怒鳴られていたはずなのだが。
もしかしてその後ずっと寝てしまっていたのだろうか……。
いや、そんなことをしていたらもう目も当てられない状況になっているはずだ。
むしろ、さっきまであんなに怒り狂っていた黒岩の機嫌は良くなっているようにも見える。
パソコンの日付表示を見ると、そこには昨日だったはずの日付が表示されていた。
まさか……と思い黒岩から送られてきたデータを確認すると、確かに昨日見たデータと同じものがそこにはあった。
……さっきまでの記憶は夢だったのだろうか。
もしかしたらデータを無くして怒られるという予知夢を見ていて、パソコンに表示されているこの日付は今日の日付で合っているのかもしれない。
俺はもう一度ゆっくりと記憶を思い返す。
黒岩に怒鳴られ俺は何も言い返せず、そして勢いよく立ち上がった黒岩が俺の方に歩いてきて……。
そしてその記憶の最後は“昨日に戻ってほしい”という俺の強い想いで途切れている。
……もしかして本当に昨日に戻ってきてしまったのだろうか。
俺の馬鹿げた願いが叶って時間を巻き戻したとでも言うのだろうか。
そんなことあり得ないはずだが……。
……自分でもかなり恥ずかしいと思うのだが、もう一度やってみよう。
あの時と同じように目を閉じ、そして黒岩からデータを送られた場面をイメージする。
そして、強く願う。
“戻れ……!”
「――おい! 村田! これ明日の打ち合わせで使うからな」
黒岩の声で俺は再び目を覚ます。
「送ったデータ、今日中にまとめておけよ」
「はい」
黒岩の指示に3度目の返事をする。
周りを見渡すと、やはり同じ営業所の社員はいつも通り仕事に勤しんでいた。
そして時計はちょうど午後の2時を指している。
これはもう確信するしかない。
今、俺は自由に時間を巻き戻すことができる……!
その力を使って俺は明日だった日から今日へ時間を巻き戻したのだ。
そして今はデータを無くす前。これで会社をクビにならなくて済む……。
それにしても、なんでこんな力が俺に備わっているのだろうか。
実は前から持っていたのか? いや、もしそうだとしたらとっくに時間を巻き戻す力に気付いていたはずだ。
この29年間、失敗するたびに時間を戻したいと願い続けてきたが、その想いが蓄積されてついに現実のものになったとでもいうのだろうか……。
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