リセット

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*** 俺がその力を手に入れてから1ヵ月ほどの時間を体感してきたが、現実には1日しか経っていない。 俺は未だに黒岩に怒鳴られるはずだった日に留まり続けている。 俺は本当にクズだ。 黒岩に頼まれた仕事をこなしながらこの力の使い道をいろいろ考えたが、考えれば考えるほど何でも実現可能なことに気付く。 仕事で大成することも、巨額の富を築き上げることも何でもできる。 無限にも思えるような力の使い道の中から俺が選択したものは本当にくだらないことだった。 それは、ストレスの発散。 俺は今までの人生において誰かと喧嘩することはおろか、他人に対して自分の意見をはっきりと伝えることでさえまともにしたことがない。 ずっと自分の考えや想いを抑えて生きてきた。 人に反発して自分が嫌われることが、自分の居場所がなくなることが何よりも怖かったからだ。 そしていつしか自分自身で考えることさえしなくなっていた。 どこに行くにも何をするにも、周りの顔色を窺い自分を殺し、他人の決定に文句も言わずに同調する。 それが一番自分にとって楽な生き方だった。 だから、何かを自分で決めなければいけないときになると必ず失敗する。 常に周りの意見に合わせてきた人間が、自分一人で物事を上手く選択できるわけがないのだ。 そんな中、俺は時間を巻き戻せる力を手に入れた。 自分のやったことをなかったことにできる力を手に入れた。 だから俺は自分がやりたかったことを抑え込まず、嘘をつかず、思ったままに素直に行動することにした。 この約1ヵ月間で、俺は黒岩を殺し続けた。 ずっとやりたかった。 ずっと心の中でイメージしていた。 黒岩から手に負えないような仕事を押し付けられるたびに、理不尽な理由で怒鳴られるたびに、俺は空想の中で何度も黒岩を殺してきた。 その空想が現実になる日がくるとは思ってもいなかった。 何回も、何回も。 黒岩を殺して、そして殺す前に時間を巻き戻す。 ある時は金槌で頭を思いっきり殴った。 ある時は包丁で全身を刺し続けた。 ある時は帰り道を後ろからつけて背後から襲い掛かった。 ある時は営業所の中で電話中に首をひもで絞めつけた。 殺される瞬間の表情が毎度毎度たまらない。 毎回同じだが、俺が凶器を持って近づいていくときにはこいつは状況を理解できずに唖然としてただ後ずさるだけだ。
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