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――ねえ、ルクス。ちょっとだけ、お母さんのお話聞いてくれる?
――何? お父さんのハゲの話?
――ううん、そんなんじゃなくて、もっと大事な、大切な話。
――お父さんのハゲ、また大きくなったよね。
――ルクス、ハゲの話じゃないの。
これからするのは、もっと、ずっと怖い話……。
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俺がまだ小さかった頃、母親から耳にタコが出来るほど言い聞かされた話がある。
この世界には『吸血鬼』と呼ばれるやつらがいるのだ――と。
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――『吸血鬼』はね、見た目は人間とそっくりなんだけれど、本当は、人間とはまったく別の、恐ろしくて、凶暴な生き物なの。
大きなキバを持っていてね、吸血鬼はそれを使って、人間に噛みついて、血を吸うの。ちゅー、ちゅー、って。
――なにそれこわい。
――そうでしょう?
でもね、そんな吸血鬼にも、苦手なモノがあるの。
十字架とか、にんにくとか、杭とか――そういうものを身につけておけば、吸血鬼は絶対に襲ってこないわ。
それを見ると、怖くて、力が抜けてしまうんですって。
――なんか、お父さんみたいだね。
お父さんも普段はいばってるけど、前にお母さんが、「これ何?」って言って口紅のついてるシャツを見せたら、急にしおらしくなったじゃん。
――今、お父さんの話はしなくていいの。
……とにかくそういう事だから、ルクスも外を出歩く時は、吸血鬼対策として、何か持っておかないとダメだからね。
――はーい。
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――
この世界には、吸血鬼がいる。
それが本当の事なのかどうかはともかくとして、人々が吸血鬼を恐れているのは、紛れもない事実だ。
皆、外を歩く時は十字架などを必ず身につけている。
もちろん俺も、見た事もない『吸血鬼』と呼ばれる存在に薄ぼんやりとした恐怖心を抱き、『対吸血鬼用』のアイテムを、肌身離さず持ち歩いた。
――だが、今日に限って、それを家にすべて忘れてきてしまう。
そうして俺は、ついに、出会う事となる。
吸血鬼に。
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