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『連日と降り積む早春の雪に、兄(けい)を案じずにはいられません。
妹はシオンの娘の様に清らかな純心を纏って、今兄を想っております。
鮮やかに色付いた兄の椿も、兄が一見を叶わぬのなら、甲斐もなしと嘆くことでしょう。
どうぞ、カエってきて下さい。
もう、父はオりませぬ。
もう、母もオりませぬ。
淋しい妹の元に、どうかカエってきて下さい。
兄を貶める畜生すらも、今は鳥部山の煙となって、姿をアラワすことはありません。
兄をセむモノはもうオリませぬ。
どうぞ、カエってきて下さい。
それが叶わぬのであれば、』
ワタクシは一瞬躊躇い、しかしサイゴに、『コチラからアいにユきます。』と添えて、兄の交換日記を閉じた。
数年後か、数十年後か。
いずれにせよ、これは何者かの手によって、外の椿の元より掘り起こされるだろう。
ふたりと、さんひきの骸と共に。
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