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「ミノル君、あたしの名前をつけて」
トモダチが言った。でも、ばくは子供の名前をあまり知らない。友達がいなかったから。
そこで簡単な名前をつけた。でも、言ったときに嬉しくなる言葉だ。
「きみの名前はカノジョだよ」
ぼくは教えた。
カノジョは美しかった。色のない世界で、カノジョだけが鮮やかだった。
やわらかな猫毛の黒髪も、ぼくを映す褐色の瞳も、ふくよかな頬の産毛も、微笑むとできるえくぼも、カノジョのすべてが繊細で美しかった。
カーテンからもれる陽の光に反射したホコリさえも、キラキラと金色に輝いていた。
「ミノルとあたしは孤独だけど、ふたり一緒ならさびしくないよね」
カノジョはすぐに、ぼくの彼女になった。
ぼくはカノジョに恋をした。はじめての恋、初恋というやつだ。
「ミノルだけを愛しているよ」
ぼくは孤独ではなくなった。愛に満ちたカノジョがいたからだ。
「ミノルは悪くないわ。ミノルが人を傷つけたくないから、周りの人がミノルを傷つけるのよ。
ミノルは誰よりも優しい。あたしはそれを知っているわ」
カノジョはぼくを理解してくれた。誰よりも誰よりも。
カノジョはぼくを愛してくれた。誰よりも誰よりも。
それでも死に憧れていた。
こんなつらい人生なら、死んで自由になりたいと願った。汚れた世界と、ぼくは決別したかったんだ。
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