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「ぼくは死にたいんだ」
「ミノルだけを愛している」
「ぼくはきみと死にたい」
「ミノルはどんな死に方がいいの?」
「ふたりで一緒に死ぬんだ」
「ミノルとあたしで一緒に死ぬ。心中という死に方ね。それはキレイでロマンチックね」
「きっと、きみとなら苦しくないよ」
「ミノルと一緒なら、あたしは平気だよ」
「死んでくれる?」
「死んであげるわ」
ふたりで死ぬことに決めた。
家の近くに河がある。そこは毎夏、水難事故がおこるので遊泳禁止になっていた場所だ。
そこでカノジョと心中することに決めた。
コンクリートでできた半円柱型の取水塔が、灰色の墓標みたいに見えたからだ。ぼくとカノジョの、永遠の愛を誓った記念碑だ。
取水塔につづく白い橋を渡り、カノジョと一緒に河に飛びこんだ。
河の水は冷たく、あごの下まで深かった。でも、カノジョの手は温かく、愛は海よりも深かった。
「ミノル、来て」
カノジョが手を引いた。
「永遠の愛を誓って、口づけをしましょう」
長い睫毛の眼を閉じて、ぼくの手を強く握った。
その頃にはつま先立ちしないといけないくらいに、水が深くなっていた。
ジャブジャブと打ち寄せる水が、ぼくの頬を打った。キーンと耳鳴りがした。バクバクと心臓が鳴った。
「離れない、ずっと一緒だよ」
カノジョの顔が近づいた。眼を閉じて、やさしく微笑んで。
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