56人が本棚に入れています
本棚に追加
/208ページ
伝書室のドアがきい、と音を立てた。廊下へ歩み出たルピナスは浮かない顔をして溜め息をこぼす。
バーヴェ国の騎士達は、遠征時を除いて、城の敷地内に併設されている宿舎に身を置いている。
閉鎖空間で日々を過ごすことが多い彼らの楽しみは、休日の外出や家族からの便り。
ルピナスが出てきたドアから、受け取った便りを大事そうに手にする者らの列が続く。それらに羨望の眼差しを向けながら、廊下の端に寄ったその時だった。
「なんだ、不細工な顔してる奴がいるな」
「不細工? どこ? え、どこどこ?
あ、もしかして今、私の向かいに立ってる赤ずきんちゃんのことかしら?」
「赤ずきん言うなー!
お前だお前! 辛気臭い顔しやがって」
廊下の壁に背を預ける青年がいた。燃えるような赤い髪に同じ色のつり目をギラつかせる高圧的な彼の名は、ナスタ。
“赤ずきん”の異名は彼の背が、騎士としては異例の低身長だから。
ナスタは壁から身体を起こし、立てた指をルピナスへと向けて喚いてみせる。
が、ルピナスから見える彼の姿は、どうあっても尖った髪の中央にある赤いつむじだけである。
──可愛い。
大多数の女子が抱く、小さいものを愛でるという感覚は、ルピナスも例外なく持ち合わせている。逆巻いたつむじの流れに沿うようにポンポンと撫でてやると、ナスタは顔を真っ赤にしてプルプルと震えてから、やはり再び喚いた。
「子供扱いするな! 頭撫でるな!!
僕はっ、心配してやってるんだぞ」
最初のコメントを投稿しよう!