第1章

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 すると、返信があり、ここに来てみるという。記憶と合致している箇所が多く、実際に見てみたいらしい。住所を送ってみると、礼の返信があった。 「琥王、遅いな……」  ふと、琥王の携帯電話にコールしてしまい、しまったとすぐに切る。これで、俺のナンバーが琥王にバレてしまった。 「呼んだ?」  しかも、琥王、すごく近くに居たのだ。琥王は、ニヤニヤと笑いながら、携帯番号の登録をしていた。 「依頼主、ここに来てみるってさ」 「そうだな、見つかるといいね」  神社にはまだ女子中学生が居るので、俺は、近くの寺に行ってみた。無人の寺で、周囲が墓に囲まれていた。まるで人気はないが、民家は近い。 「ロープ……」  俺達の行動がかなり怪しい。ロープを取り出し、まるで首つりのようでもあった。犬を散歩させている、通りすがりの人が、訝しげにこちらを見ていた。 「心中みたいか?心中、いい響き」  琥王が呑気で笑っているが、俺には、バイトもある。早く帰宅したい。 「あ、人を呼んでいる」  去って行った人を遠視すると、家で誰かを呼び、再びこちらに向かっていた。 「琥王、飛ぶぞ!」  面倒は困る。慌てて飛ぶと、琥王が半分落ちかけていた。 「薬師神、もう少し丁寧に飛べ!」 「うるせえ!」  耳元で叫ばないで欲しい。 「でも、夜の空中はいいな……」  街の光が小さく見えていた。今何時だと腕時計を見て、つい琥王を支えていた手を離してしまい、絶叫が聞こえた。 「あ、ごめん」 「ごめんじゃない。死ぬかと思った」  琥王の腕力は強い。俺の腹に手が喰い込んでいた。 「じゃ、降りるよ」  今度は、早めに減速してゆく。夜なので、そんなには目立たないだろう。ベランダに降りて、とんでも無い事を思い出した。 「薬師神君、飛べるのか」  塩冶に、俺は飛べるという説明をしていなかった。どう、説明したら良いのかも分からない。 「まあ、神憑きだからね。多少はアリなのかな」  ベランダでビールを飲んでいた塩冶は、何も気にしていなかった。 「塩冶さん、店はどうしたのですか?」 「働きたくないと願ったら、店員を造ってしまったみたいでね……」  塩冶の返還の血の力にも、困ったものだと思う。 「人は、作らないでください」  世界の修正では、桐生も消してしまうかもしれないのだ。頻繁に修正がかかる事態になれば、塩冶自体も還されてしまう。
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