第1章

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「うん、分かっている。今のはウソ。桐生が本当の人間をバイトに採用しただけだよ。でも、大丈夫。屋根裏に神憑きを飼っていると説明してあるから」  この説明も誤りであった。塩冶の母親が、神憑きを守ると言って、人を派遣してきたのだ。それを桐生が、店でこき使っていた。 「俺は、森のくまに行ってきます」  バイトがある、夜は自転車通勤にしていたが、エレベータを降りると若い男が待機していた。 「神々廻(ししば)と申します。塩冶様から薬師神様をお守りするように申しつけられております」  黒服に、サングラス。どこのシークレットサービスなのだ。こんな人を、桐生は店でこき使っていたのか。 「いや、バイトなので一人で大丈夫です」 「一人にするなと申し付かっております。貴方様の一人は危険過ぎます。塩冶様は神を七人揃えたくないのです。しかし、神憑きを邪険にする風潮も許しません。神憑きは、人間が許されている、最後の希望なのだそうです」  どうしたらいいのだろう。とりあえず、俺は自転車で森のくまに向かい、神々廻は車で護衛していた。  森のくまに到着すると、着替えて荷物を運ぶ。すると、神々廻まで手伝ってくれた。 「一弘君、その人はどなた?」  芽実が、恐る恐る黒服に近寄っていた。 「神々廻です。薬師神様の護衛です」  芽実も俺の事情は知っているが、塩冶という存在はあまり知ってはいなかった。 「ええとね、ウチのバイト料は高くないの。それとね、やるのだったら作業服に着替えてね」  芽実も、もしかしたら、あまり気にしないタイプなのかもしれない。  その日、ふるさとを探す依頼者の影響なのか、どこか、森のくまも大切な場所だと再認識していた。  森をイメージした木の香りのする店内。床も木で、壁もカウンターも木製であった。蔦が絡まったような表に、レトロな看板。店の前の椅子には、巨大な熊のぬいぐるみが本日のおすすめを持って座っている。 「一弘君」  芽実が、新作のパンの試作を持っていた。 「どう?」  芋なのだろうか、栗も練り込まれていて甘いが、主食ともなりそうなパンであった。 「おいしいです」 「そっか、良かった。それとね、えんきり屋さんでも焼けるように、一弘君にクッキーを伝授したいの」  芽実は、俺にクッキーの焼き方を伝授するという。 「横で見ていて、次に真似してみてね」
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