33人が本棚に入れています
本棚に追加
「うん、分かっている。今のはウソ。桐生が本当の人間をバイトに採用しただけだよ。でも、大丈夫。屋根裏に神憑きを飼っていると説明してあるから」
この説明も誤りであった。塩冶の母親が、神憑きを守ると言って、人を派遣してきたのだ。それを桐生が、店でこき使っていた。
「俺は、森のくまに行ってきます」
バイトがある、夜は自転車通勤にしていたが、エレベータを降りると若い男が待機していた。
「神々廻(ししば)と申します。塩冶様から薬師神様をお守りするように申しつけられております」
黒服に、サングラス。どこのシークレットサービスなのだ。こんな人を、桐生は店でこき使っていたのか。
「いや、バイトなので一人で大丈夫です」
「一人にするなと申し付かっております。貴方様の一人は危険過ぎます。塩冶様は神を七人揃えたくないのです。しかし、神憑きを邪険にする風潮も許しません。神憑きは、人間が許されている、最後の希望なのだそうです」
どうしたらいいのだろう。とりあえず、俺は自転車で森のくまに向かい、神々廻は車で護衛していた。
森のくまに到着すると、着替えて荷物を運ぶ。すると、神々廻まで手伝ってくれた。
「一弘君、その人はどなた?」
芽実が、恐る恐る黒服に近寄っていた。
「神々廻です。薬師神様の護衛です」
芽実も俺の事情は知っているが、塩冶という存在はあまり知ってはいなかった。
「ええとね、ウチのバイト料は高くないの。それとね、やるのだったら作業服に着替えてね」
芽実も、もしかしたら、あまり気にしないタイプなのかもしれない。
その日、ふるさとを探す依頼者の影響なのか、どこか、森のくまも大切な場所だと再認識していた。
森をイメージした木の香りのする店内。床も木で、壁もカウンターも木製であった。蔦が絡まったような表に、レトロな看板。店の前の椅子には、巨大な熊のぬいぐるみが本日のおすすめを持って座っている。
「一弘君」
芽実が、新作のパンの試作を持っていた。
「どう?」
芋なのだろうか、栗も練り込まれていて甘いが、主食ともなりそうなパンであった。
「おいしいです」
「そっか、良かった。それとね、えんきり屋さんでも焼けるように、一弘君にクッキーを伝授したいの」
芽実は、俺にクッキーの焼き方を伝授するという。
「横で見ていて、次に真似してみてね」
最初のコメントを投稿しよう!