第1章

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 食事として入ったレストランは、一軒屋で周囲を森に囲まれていた。  一日三組しか客を入れない完全予約制というので、この祖母、俺達が追い出されるだろうと、予期して予約をしていたらしい。  テーブルを囲んで、フルコースが運ばれてきていた。 「一弘君、アパートを探していたの?」  安廣は、俺の隣に座っていた。 「はい。でも、最近、パンを焼くのが楽しくて、家から出ても、今まで通りに働かせてくださると助かります」  安廣の隣の、芽実が泣きそうになっていた。 「それがいい」  突然、祖父が声を発したので、一瞬、誰が喋ったのか分からなかった。  白い壁に、広い窓、そこに銅像があった。あり得ないが、その銅像が喋ったのかと思ったくらいだ。 「神が七人揃うと、世界は滅び、船に乗った神が現れる」  七福神のようだ。宝船なのだろうか。 「神は来るだけで、誰も救わない」  へ?何か酷い。 「人は人を救い、人は救世主を産む。神が救うのではない、人を救うのは人。それだけだ」  ある意味、真理ではあった。神憑きは、幸せとは縁遠い。人が願うのは、人が生きる世界なのかもしれない。神という気まぐれな救いではなく、自分で未来を切り開く誓いこそが、神の愛すべきことなのだ。  神は居る、だから、自力で未来へ行け。妙だが、それもアリかと思う。 「…親父、一弘君に、何か言いたいことがあるから場を作れって、俺に頼んだよね?」  安廣が、半分眠っている祖父を見ていた。 「うむ。嘉盛を嫌っているようだが、嘉盛は母屋には来ないから、遊びに来い」 「それが言いたかったの?」  うむと、頷かれていた。  祖父母は、今も文化財の母屋に住んでいる。 そもそも、年に一回会えば多い方だった祖父母の家に、遊びに行くだろうか。が、この老夫婦に、それは言えなかった。 「そちらが、遊びに来ればいいでしょう」  はっと、祖父が、何かに気が付いたようであった。 「その手があったか!」  どうも天然のボケは、安廣へと遺伝されている何かであった。 「でも、一弘君はアパートに引っ越ししようとしているのでしょ」 「はい。俺、安廣さんに芽実さんと結婚して欲しいのですよ。で、邪魔者は失せます」  この二人には、幸せになって貰いたい。 「私が、一弘君を育てたのよ……」
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