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でも、今は芽実には森のくまがある。それに、芽実には言い難いが、実の親子ではなかったので、俺は何も求めていなかった。でも、俺は芽実に、感謝はしている、愛情も持っている。
遠い昔、正月には、芽実は実家に帰っていた。安廣は医者の当番があるので、芽実は一人で帰る。俺は他人であるのだ。もちろん家に置いてゆく。芽実の気持ちもわかる。安廣が居なければ、俺は芽実の両親に責められる。でも、一人残された子供が、どんな生活をしていたのかは、誰も知らないだろう。暗い家の中で、いつ帰るのか分からない、帰っても疲れて眠るだけの人を待つ。
家に居ても寂しいので、一人で公園で遊び、片隅で眠ってしまったが、深夜を過ぎても、誰も気が付くことがなかった。目が覚めた時の、公園の真ん中にあった蛍光灯の光と、途方もない孤独から、俺は今も逃れられていない。
「芽実さん、今度は自分の子供を育ててください」
他人であるので、互いに遠慮してしまう、そして互いに傷付くだけなのだ。
だから、他人でいい。森のくまの、店主とバイトの関係が、一番良いのだ。
「森のくまのバイト料では、アパートは辛いよ」
それが、人探しで金を得てしまっていた。
「他でも働きます」
「そんな時間はあるの?」
安廣が、珍しく食い下がっていた。
「……そうやって安廣は、妹も追い込んでしまったのよね。で、子供ができたも、生まれたも、実家に連絡がなかった」
祖母のきつい口調に、安廣が項垂れる。
「はい……ただ祝ってやれば良かったと、幾度も後悔しましたよ……」
「では、この話はおしまい。楽しく食事をしましょう」
祖母は、よく仕切る。そして、祖父は置物のように静かになっていた。
「一弘君、彼女はいるの?」
祖母、俺の正面に座っていた。上品で、食べ方がとても上手い。壁に掛けてある絵を背に、まるで貴族のようであった。真っ白な髪に、白い肌をしていた。
「おりません。産まれてから今まで、彼女はおりません」
多分、居ないだろう。彼女に似た関係の者はいたことがある。
「あら、もったいない。こんないい男なのにね。でも、同学年だと、貴方は幼いかしら。生まれがね、四月一日ですものね」
よく喋る。でも、喋りながら、綺麗に食べてゆく。俺は、集中してもナイフとフォークが、滑ってしまっていた。
「クラブ活動は、何かしているのかしら?」
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