第1章

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返還の血2 『神憑き』 第一章 七人の神  通勤や通学で混みあう、朝の電車。そこで爆睡するのが俺の日課になっている。  俺は薬師神 一弘(やくしじん かずひろ)高校二年生、四月一日生まれなので、やっと十六歳になった。  前で俺を見下ろしているのは、檮山 琥王(ゆすやま こおう)同じ高校で、隣のクラスの奴だ。  琥王が居ると、気配で分かる。女性は必ず琥王を見る。色の薄い髪に、金色のような目。琥王は、べっ甲飴のような色の目で、まるで猫科の猛獣のようであった。  琥王は、俺が爆睡していても、たいして気にもしていないどころか、平気で話しかけてくる。 「なあ、薬師神、今度の土曜日、空いていないかな?」  俺は、降りる駅に近付くブレーキでやっと目を覚ました。カーブに駅があるので、独特であるのだ。  俺は朝の三時から、パン屋の手伝いをするのが日課であった。パン屋、森のくま、かなりの人気店のようで、琥王もパン目当てで俺に近付いた。  駅のホームに降りると、同じ制服の学生で混みあっていた。改札を抜けると、駅前のロータリーに出る。ロータリーの端から、通学用のバスも走っているが、俺は駅から学校まで歩く。混んでいる電車を降りて、わずかな距離でも、又混んでいるバスに乗るのは億劫だった。  歩いても、学校まで十五分といったところである。バスでも、乗り降りに時間がかかり、十二・三分はかかる。 「で、土曜日は暇?」  住宅街を抜けて、坂を登った先に学校がある。この坂のせいで、バスが走っている。坂を、登りたくないという生徒が多いのだ。帰りのバスは、結構空いている。  ちなみに、手前の駅で降りても学校は近いが、逆側から登る坂は、長いうえにきつい。まだこっちの駅はマシな方であった。 「土曜日は、本家に呼びだされている。安廣さんと芽実さんもね」  だいたい、本家の言いたい事はわかる。俺が居るから、安廣が結婚しない。いいかげん結婚しろ、だ。 「本家?善家(ぜんけ)の?」  善家 安廣(ぜんけ やすひろ)俺の、死んだ母の双子の兄であった。赤ん坊の時に両親を失った俺を、安廣が育てた。芽実は、田所 芽実(たどころ めぐみ)赤ん坊を抱えて困っていた安廣を手伝い、かれこれ十六年も同棲している。 「そう。善家の本家。安廣さんも結婚したらいいのだけどね。芽実さんが長女でね。弟は居るのだけど……家を継ぐ気はないらしい」
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