第1章

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 自分のハンカチを使えばいいのに、琥王は、俺が鞄に予備として入れているタオルを使っていた。 「琥王……俺、自分で洗濯なの」  琥王のように、親が洗濯してくれるわけではない。洗い物を増やさないで欲しい。 「で、琥王は、土曜日に何をしようとしていたの?」  校門を潜ると、琥王には幾人もが挨拶をして去ってゆく。俺は、クラスメートの顔も覚えていない。 「チケットを貰ったからさ。サーカス……の」  琥王が、鞄からチケットを探すと見せてくれた。 「サーカス……?俺、見た事ないや」  サーカスどころではなく、動物園にも遊園地にも行ったことがない。安廣も芽実も、土日が忙しく、俺は行きたいとも言えなかった。  サーカス見てみたかった。でも俺に憑いている神が、厄病神から物を受け取るなと怒る。神でも相性があり、俺と厄病神の相性が悪いのだそうだ。一つの厄を、俺は何十倍にもしてしまう。 「でも、用事があるからしょうがないよね。ありがとう琥王、誘ってくれて」 「薬師神が行かないならば、いらない」  琥王、通りすがりの男子生徒に、チケットをあげてしまった。  チケットを貰った彼は、多分、彼女を誘い、そして振られる。チケットは、厄付きなのでうまくはいかない。でも、大丈夫、誘った女友達と新しい恋が生まれる予感がある。 「それでは、琥王君に、映画のチケットを差し上げましょう」  森のくまで貰ったものだ。芽実がスタッフに配っていた。 「……何で二枚くれるの?」  二枚ならば、誰かを誘えるだろう。一人で行ったのではつまらない。 「彼女を誘って、行ってこいよ。最近、会っていないだろ」  琥王が、苦笑いしていた。 「まあ、それもいいかもね。でも薬師神が一緒に行こうと誘ってくれるのも、嬉しいけどね」  靴の履き替え教室に向かうと、朝食を待っている連中が居た。俺が、森のくまの店員と分かると、幾人か増えた。 「パン!」  紙袋に一杯のパン。俺は、自分の朝食と、昼食を別のバッグに移す。 「忽那、最近、人が増えていないかな?」  瞬間で、パンが消えた。琥王がやってくると、失われたパンを見て、ショックを隠せないようであった。 「薬師神、これメンバー制にしよう。今、あきらかに全然知らない人まで、パンを持っていったよ」  確かに、俺も変だと思った。ここは、パンの配給をしているわけではない。 「あ、俺の朝食がない」
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