33人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
自分のハンカチを使えばいいのに、琥王は、俺が鞄に予備として入れているタオルを使っていた。
「琥王……俺、自分で洗濯なの」
琥王のように、親が洗濯してくれるわけではない。洗い物を増やさないで欲しい。
「で、琥王は、土曜日に何をしようとしていたの?」
校門を潜ると、琥王には幾人もが挨拶をして去ってゆく。俺は、クラスメートの顔も覚えていない。
「チケットを貰ったからさ。サーカス……の」
琥王が、鞄からチケットを探すと見せてくれた。
「サーカス……?俺、見た事ないや」
サーカスどころではなく、動物園にも遊園地にも行ったことがない。安廣も芽実も、土日が忙しく、俺は行きたいとも言えなかった。
サーカス見てみたかった。でも俺に憑いている神が、厄病神から物を受け取るなと怒る。神でも相性があり、俺と厄病神の相性が悪いのだそうだ。一つの厄を、俺は何十倍にもしてしまう。
「でも、用事があるからしょうがないよね。ありがとう琥王、誘ってくれて」
「薬師神が行かないならば、いらない」
琥王、通りすがりの男子生徒に、チケットをあげてしまった。
チケットを貰った彼は、多分、彼女を誘い、そして振られる。チケットは、厄付きなのでうまくはいかない。でも、大丈夫、誘った女友達と新しい恋が生まれる予感がある。
「それでは、琥王君に、映画のチケットを差し上げましょう」
森のくまで貰ったものだ。芽実がスタッフに配っていた。
「……何で二枚くれるの?」
二枚ならば、誰かを誘えるだろう。一人で行ったのではつまらない。
「彼女を誘って、行ってこいよ。最近、会っていないだろ」
琥王が、苦笑いしていた。
「まあ、それもいいかもね。でも薬師神が一緒に行こうと誘ってくれるのも、嬉しいけどね」
靴の履き替え教室に向かうと、朝食を待っている連中が居た。俺が、森のくまの店員と分かると、幾人か増えた。
「パン!」
紙袋に一杯のパン。俺は、自分の朝食と、昼食を別のバッグに移す。
「忽那、最近、人が増えていないかな?」
瞬間で、パンが消えた。琥王がやってくると、失われたパンを見て、ショックを隠せないようであった。
「薬師神、これメンバー制にしよう。今、あきらかに全然知らない人まで、パンを持っていったよ」
確かに、俺も変だと思った。ここは、パンの配給をしているわけではない。
「あ、俺の朝食がない」
最初のコメントを投稿しよう!