第1章

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 別にしておいた朝食まで、持ってゆかれていた。 「…明日から、場所を変えよう…」  これでは、ゆっくりと朝食が食べられない。 「そうする」  手に持っていたパンがあって良かった。他に、保温の弁当箱に入れられていた、パンのグラタンがあって良かった。どうにか食事ができる。  で、次の日は、鞄を置くと、ベランダで朝食にした。この学校のベランダは狭いので、三人固まれば隙間もなくなる。幾人もが、教室を覗き、不在の理由を聞いていた。誰かがベランダを指差すと、何か不満を言っていた。 「どうにか、朝食にありつけた」  琥王に、試作品のパンを渡す。忽那は、いつものパンを取ると、周囲にも配っていた。 「今度、えんきり屋に持って行こうかと思ってさ。シフォンケーキ森のくま」  紅茶のシフォンケーキではなく、緑茶にしてみた。サッパリしていて食べやすいが、コーヒーには合わない。緑色をしている。 「抹茶ではないの?」 「定番は避けてみた」  そこで、チョコを合わせてみると、意外にもおいしかった。ほろ苦い生地に、チョコのコーティングが薄くかかる。これならば、コーヒーにも合う。  幾人もが教室を見ているので、見かねた琥王が余ったパンを持ってゆき、何か喋りながら配っていた。 「琥王は、世渡りが上手いよね……」 「薬師神は、極端に世渡りが下手だからね」  しみじみと、忽那に言われてしまった。俺は、クラスメートも忽那と、藤井くらいしか知らない。後は、顔は知っているという感じで幾人かはいるが、ほぼ話したことがない。 「最近、薬師神、女子からも、森のくまで働いているで、かなり親近感を持たれたみたいよ」  親近感を持たれても、特に変わった事はない。相変わらず、避けられている。 「ミーティングが始まるよ」  席に戻ると、机の上にメモがあった。『パン食べてごめんね』無記名ならば、無いほうがいい。俺は、メモをゴミ箱に捨てていた。 「今日は、長距離走だってよ」  二時限目から、疲れることをさせないでほしいが、体育が長距離走であった。十キロ程、走って来いという。それは少し長いのではないのか。授業中、最初から走り、最後まで走らなくてはならない。  でも、俺はたいして苦にはならない。しかも、学校から出て外のルートを走って来るコースであった。外は、退屈しないで済む。それに、監視も少ないので、地図さえ覚えていれば、ただ走っていれば良いのだ。
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