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芽実は、クッキーを造りながら、本当は俺が森のくまを継いでくれたらいいなと、思っていたと言う。でも、俺の夢を聞いて、自分も親の跡を継がずに、飛び出した事を思い出したらしい。
「一弘君は、私の息子なの。家を飛び出す所も似たのよね」
芽実は、幾種類かのクッキーの生地を順番に造っていた。手際が良く、どれも美しい。
「安廣さんは、私に結婚しようって何度も言ってくれている。でね、このままじゃダメだなって思った。私は、まず、弟を話し合う。跡取りは弟になって貰う」
農家は継がないと、飛び出した弟。自分も夢を持っていた芽実は、弟を非難できなかったらしい。
「でね、私は安廣さんの嫁になってね、一弘君のお母さんになる」
俺は、芽実を母親とは思ってはいなかった。
「芽実さん……」
「今からは遅いのかな?もっと、抱き締めて甘やかして一弘君を育てれば良かった。どっかで、引いてしまっていたのよね。でも、私は決心したの、今からでも母になる」
芽実の目を見ると、揺るぎない心が見えていた。
「はい。よろしくお願いします」
きっと今からでも、遅くはない。本当の家族になろう。
「では、こちらからも、よろしくおねがいします。私は、問題を解決したら、一弘君を取り戻しに行きますからね」
取り戻すと言っても、俺は自分から出て行ったのだ。帰って来いと言われても、まだ帰る気にはなっていなかった。
塩冶からの報告により、依頼者のふるさとは、見つけた場所で合っていた。再会し、近況を報告し合ったという。
琥王は、飛行用にベルトを購入していた。シートベルトの応用版を特注したらしく、次の使用を待っている。
『神憑き』 了
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