第1章

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 奥から声が聞こえると、庭に面した大広間に通されていた。これが、人が住んでいる民家なのであろうか。縁側から庭に続く景色は、どこかのお殿様の部屋のようであった。 「安廣、今日、呼んだのはな」  部屋のはるか遠く、床の間を背にして嘉盛とその子供、妻が座っていた。ここでは身分制度があるようで、俺などあと少しで、部屋から出て廊下になるという場所に居た。末席というのだろうか。 「そろそろ芽実さんと、身を固めたらどうだ?」  それは俺も思う。このまま、他人で芽実さんといてもいいのだろうか。こんな、いい人はなかなか居ない。 「そこの一弘君ならば、我が家で引き取ってもいい」  その内容ならば、電話で済みそうだ。 「兄さん。その話は、俺と芽実の問題です」  安廣は、兄の嘉盛とは仲が悪い。 「私は、一弘君の叔父でもあるだろう」  母の兄であるが、どうにも俺とも相性が悪い。この尊大な態度が、気に入らない。  呼びだしておいて、待たせ、しかも、接待などない。部屋の隅と隅、向こうが上座に座って、親睦もない。  善家も神憑きの多い家系であるので、それなりに栄える。でも、善行がなければ、神は子孫には憑かずに消えてゆくものだ。  金を稼いだからといって、善行が積まれているというわけではない。 「子連れでは、芽実さんの両親も納得しないのだろ?」  確かに、俺がいることは、芽実の両親には快く思われていない。でも、芽実と俺は、他人であるのだ、問題ではない。 「俺は、家を出ます。自分で生活します」  善家も頼るつもりはない。 「一弘君?」  安廣と、芽実が同時に振り返っていた。 「我が家に来ればいいだろう。一人増えたところで、問題ないからな」  ここで、暮らすよりも、一人のほうがいい。 「いや、今、部屋を探していますから、心配ありません」  俺は立ち上がって、この嫌な家から一秒でも早く出たかった。  高い所から見ているような、見下した目をした叔父と、その家族。俺を蔑む、そんな中で、どう過ごせばいいのだ。 「君、神憑きだろう。ここの神也(しんや)と巳杞(みこ)は神使いだよ。うまく、君をつかってあげるよ」  嘉盛の子供、神也と巳杞が、口元だけで笑っていた。  神也と巳杞には、神が憑いている。でも、生まれつきで憑いていたわけではない。何で捕まえているのか問おうとしたが、すぐに分かった。金で捕まえているのだ。
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