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呼び止められて、振り返るとそこには帽子を深く被った男が立っていた。
面識はない。
ただ直感が状況を伝えた。
「分かるな?」
オレは腹部に硬い棒状の物を押し付けられた。
見なくても分かる。
オレはゆっくりと頷いた。
「殺すのか?」
「どうされたい?」
「どうしたい?」
「時効まであと二十四時間なんだ」
フフフとその男は笑った。
「面白い事を言うな」
「そう言うのは仕事だけにしているつもりだ」
「なるほど。普通、逃亡者は闇に紛れて生き延びる」
腹部に当たる筒がさらに強く押し付けられた。
「でもお前はその逆を行った。なかなかの度胸だと感心するよ。でもな、組織に生きた人間は組織から逃れられない。分かっているな?」
「嗚呼」
「そろそろ終わりにしようか。何か言いたいことはあるか?」
「一つだけ頼みがある。今からあのテレビ局で収録があるんだ。年末の特番」
「で?」
「放送は年明けになる。田舎の親に最後の孝行をさせてくれないか?」
オレはテレビ局に入った。
いつもの様に楽屋へと向かい、先輩の出演者から順に挨拶をする。
「今日もよろしくお願いします」
「ヨロシク!」
「よろしくお願いします!」
「いい感じで振るから、どんと笑い取ってよ!」
「ヨロシクです」
「コッチもヨロシク。シゲはこの後も収録なの?」
オレは「空いているよ」と仲間の芸人に伝えた。
「久しぶりに呑みたいなぁ」
と同期故の親しみでその芸人が言った。
「じゃあ、呑む? なんなら後輩にも声かける?」
「イイねぇ。何か年末ってしんみりするよなぁ」
オレは微笑んだ。
路地裏に横たわる男はもう発見されただろうか。
「まだ終わる訳には行かないんだ」
オレはピストルの引き金を強く引いた。
乾いた音が街中に響いた。
オレは幾つもの角を曲がり、裏通りからテレビ局へと入って来た。
ここでまだ死ぬ訳には行かない。オレにはもう一つやり残していることがある。
収録は予定通りに進んだ。
終わったのは、日付の変わる頃で、出演者たちともそこではけた。
「聞いたか?」
「何を?」
仲間の芸人が囁く。
「そこのビルの脇で男が銃殺されたんだってよ」
「知らなかった。怖いな」
オレは確信した。
まだ男は発見されていない。
ネット記事にも出ていない。それはオレが何よりわかっている。
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