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ティリアはじたばたと足を動かし、その場で一周回る。止まっても足踏みは止めない。ここは崖の上であるらしい。草の生えていない地面はすっぱりと途切れて下には黒い森が広がっていた。
後ろを振り返ると緩やかな下り傾斜の向こうに鬱蒼と木々が乱立していた。木と木の間には月光も届かないのだろう。何も見えない。真っ黒だ。
強い風が吹いて地面でカシャンと硬い音がする。ティリアの目の前を暗幕が覆った。
「わっ! ぶっ!」
髪を留めていた飾りが落ちたらしい。日の光があれば紺にも見える腰まである髪が顔を容赦なく叩く。思わず下を向いた。左手でスカート裾を抑え、右手で髪を掻き分ける。
少し弱まった風にようやく顔を上げるとティリアの目の前に大きな爬虫類の顔があった。ティリアはそのまま固まった。深い緑の瞳だけが大きく見開かれる。
硬そうな茶色の鱗に覆われていた。月光を反射して輝く琥珀色の瞳はティリアの拳ほどもある。鼻の頭から頭の上まで小ぶりの角のような突起が等間隔に並んでいた。
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