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「あーのー、くーそーじーじーいーっっ!!」
ティリア上掛けを力一杯引っ張り、雄叫びを上げた。息の続く限り吐き出し、頭が垂れたところでハタと気付いた。これは自分の家の布団ではない、と。
急いで握り締めていたしわを伸ばし、深い溜め息をこぼした。
ティリアとて分からないことはないのだ。エグトルは村長として村を第一に考える義務がある。それは幼い頃からトーラスと共にエグトルに言い聞かせられていたためティリアにも染みついている。村長の孫娘として差し出された事は理解できていた。
だが、こんな騙し討ちのような所業は気に食わない。せめて説得くらいあっても良さそうなものではないか。
いや、そもそもエグトルには孫娘を生け贄にするという悲壮感が足りなかった。ティリアはエグトルにとって愛すべき家族のはずだ。
「……ハズ、よね?」
ティリアは思わず自信なさげに呟いた。ティリアの腹に拳をめり込ませた祖父の飄々(ひょうひょう)とした顔が脳裏を過ぎる。
エグトルは両親ともに事故で亡くしてからトーラスとティリアを男手一つで育ててくれた。恩も愛情も感じているし、尊敬もしている。
「あらあら、元気な声ね。」
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