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パラパラと、雪の小さな塊が落ちる音がした。わたしはここまでしながら、まだ生きているのか。しかしこれでもう、登ることは無理だ。
足が折れた。腕も折れた。
しかし、目は開いた。目を開いてすぐにわたしは、初めて今まで見守っていてくれたであろう神様を、恨んだ。
開いたわたしの目が写したのは、深い深いクレバスの中から見上げる、澄みきった青空だったのだ。
深い雪と氷の底で見上げる青空は、これまで見てきた山頂の空とは違い、しかしこれは特有の美しさを持っていた。
「わたしが目指していたのは、高いところではなく、空だったのかもしれない」
声が出たかはわからなかった。耳の機能は止まったようだ。
では、熱く燃える心臓が動くうちに、わたしの息が続くうちにする事があるではないか。
「あぁ、いい天気だなぁ……」
わたしの声は、呟きは、誰にも聞かれずに冷たい雪と氷の中に溶けていく。
……
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