偉大なものへ。

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あの時を思い返すと……うん、やはり後悔はしてない。 わたしは大学のサークルがきっかけで登山をする。結婚はおろか、恋人さえも作らずに。 山は高ければ高いほど、険しければ険しいほど、難攻不落ならば難攻不落なほど、わたしの心は燃えた。 信頼をおけるチームのみんなで、共に支えあい、励ましあい、時にお互いを叱咤し、涙する……そんな数々のドラマを我々は繰り広げてきた。 わたしはそもそも、高いところが好きだった。椅子の上から屋根の上、滑り台の上からジャングルジムの上、学校の屋上からヘリコプター。東京タワーにスカイツリー。 子供の頃ならそれで満足していた。しかし、もっと高い場所がある。それが登山だった。 大学で登山サークルに入り、勉強しながら登山を楽しんだ。一歩ずつ、一歩ずつ誰より高いところへ。そしていつか空まで手が届く……そんな場所まで行くのが夢だった。 わたしは四十代になるまでに日本の山を登りつくし、それで飽き足らず日本を出て様々な山に挑戦しだしていた。 登山サークルのメンバーはほとんど入れ替わったが、わたしはやめなかった。 やめられなかったのだ。
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