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思い返すまでもなく、体感した記憶がゆっくりと脳に刻まれていく。
わたしはクレバスに、落ちたのだ。
右足は奇跡的に氷の出っ張りに乗っていた。左足は底が見えない空間の上に宙ぶらりん。両手も同じく何も掴んでいない。しかし、荷物が、背中の荷物が氷の狭くなっている場所に引っ掛かっていたのだ。
クレバスに落ちたわたしは、生きていた。
これはきっと奇跡だ。この下にも"先輩"はいるのかもしれない。しかしわたしはこの下には行かない。わたしは上へ行くのだ。高いところへ、空の近くへ、宇宙に手が届くところまで。
死に物狂いとはこの事だと、わたしはこれまで四十数年の歴史の中で最高に頭をフル回転し、手足を動かした。
幸い、本当に不幸中の幸いで、落ちた位置はそう深くなかったようだ。それでも慎重に、体感で一時間かけてみんなのいる地表に、いや雪表に顔を出したのだ。
辺りを見回せば、あぁ、あそこにみんながいる。少し先に行っているが、メンバーは揃っている。
待ってくれ、出来れば手を貸してくれ。
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