5人が本棚に入れています
本棚に追加
天候がいいのが幸いしてか、視界は良好で、みんなの表情まで見えそうだった。
クレバスに落ちたわたしが、オコジョのように頭を出しているのをメンバーの中で最年少の男が気付いた。そして、大声でメンバーを呼び止め、みんなが信じられないという顔でこっちを見ている。
わたしは手を振り返してやりたかったが、どちらの手も体を支えるのでいっぱいだった。
男はこちらに来ようとした。
わたしは声を出すのもはばかられて、ただ、じっとしているしかなかった。しかし、これで助かる。みんなと共にゴールへ行けると心の何処かが安心していた。
二、三歩こちらへ戻った男の肩を掴む手が見えた。ベテランメンバーの彼だった。彼は二、三言葉を発すると、二人は、みんなも黙りこんだ。何を言ったか聞こえなかったが、何を言ったかわかったような気がした。
「助けに行く事は、出来ない」
この周辺はきっとクレバスだらけなのだろう。戻ればメンバーがクレバスに落ち、二次被害を起こすかもしれない。それを懸念したのだ。
最初のコメントを投稿しよう!