偉大なものへ。

8/11
前へ
/11ページ
次へ
天候がいいのが幸いしてか、視界は良好で、みんなの表情まで見えそうだった。 クレバスに落ちたわたしが、オコジョのように頭を出しているのをメンバーの中で最年少の男が気付いた。そして、大声でメンバーを呼び止め、みんなが信じられないという顔でこっちを見ている。 わたしは手を振り返してやりたかったが、どちらの手も体を支えるのでいっぱいだった。 男はこちらに来ようとした。 わたしは声を出すのもはばかられて、ただ、じっとしているしかなかった。しかし、これで助かる。みんなと共にゴールへ行けると心の何処かが安心していた。 二、三歩こちらへ戻った男の肩を掴む手が見えた。ベテランメンバーの彼だった。彼は二、三言葉を発すると、二人は、みんなも黙りこんだ。何を言ったか聞こえなかったが、何を言ったかわかったような気がした。 「助けに行く事は、出来ない」 この周辺はきっとクレバスだらけなのだろう。戻ればメンバーがクレバスに落ち、二次被害を起こすかもしれない。それを懸念したのだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加