scene5「虚数頁の枕詞」

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「これも駄目、か」  僕は顔を上げて、黴臭い上製本を片手で閉じた。  それを本棚に空いた、丁度一冊ぶんの隙間にねじ込んで、息を吐く。  そして今度は隣の書籍に手を伸ばし、指をかけて――と、そんなことを、気づけばもう何時間も繰り返している。  今日、僕は学校を休んだ。  欠勤の連絡を伊予に任せ(恐らく合成音声か何かを使うのだろう)、僕は早朝からある場所に足を運んだのだ。  <北区>にある、町立の図書館。  奥勢の開発計画、その一部であるらしいここは、五年前に建てられた真新しい施設である。  かつて南区にあったという旧図書館から運び込まれたものと、豊富な予算を持って買い揃えられた数多の蔵書――僕はそこに手がかりを求めた。
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