scene5「虚数頁の枕詞」

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 さて、何を話の種にしようかと、頭の中を探っていると、 「そういえば信濃くん、今日は何を調べに来たんですか?」  向こうから、至極自然な質問が飛んできた。  勿論、正直に答えるわけにはいかないので、適当に誤魔化す。 「ほら、何て言うか、オカルト……みたいなものなんだけどさ。そろそろ夏も本格化してきたし、肝試しにでも行こうかなって」  肝試しどころか、昨日も怪異と向き合ってきたばかりなのだが。  しばらく考え込むようにした近江さんは、申し訳なさそうに眉を寄せて、 「うーん、ごめんなさい。私はそういうのには疎いんです。オカルト関係の本ならあの辺りに置いてあると思うので、よければ」  そう言って、ある一角を指差す。  しかし、そこにあったのはさっきまで僕が漁っていた本棚だ。  大した収穫は得られなかった、資料の山だ。
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