scene5「虚数頁の枕詞」

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 結論から言うと、どの本にも『赤ナイフ』なんて噂話のことは載っていなかった。  それこそ、児童向けの誇張された幼稚なホラーから、本格的な百物語まで、どこを探してみてもその存在は見受けられない。  似たような怪異ならいくらでも見つかる。  有名なところではかの『赤マント』なんかが字面も内容も似通ってはいたが、けれども、あの都市伝説とはどうも重ならない。  その他の類似点が見つけられる噂話でも、僅かずつズレているというか、どうにもしっくりこないものばかりだ。  ーー勿論、調べたものの中にはこの奥勢という地域に根差した資料もあった。  しかし、そういった書籍はほとんどが歴史と絡めて、民俗学的に理論を展開してゆくものばかりであった。  いくつかのメジャーな都市伝説が奥勢でもそれなりに流行していたーーその程度のことしかわからない。
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